介護の不安は解消できる

認知症の周辺症状を軽減させる「音楽療法」とは何か?

音楽に合わせて楽しむ
音楽に合わせて楽しむ

 認知症を発症すると、物忘れのほかに不安や抑うつ、徘徊、暴力行為、不眠、幻覚や妄想といった周辺症状(BPSD)が現れます。向精神薬を用いた薬物療法が効果的とされる一方で、歩行障害や誤嚥といった副作用のリスクが問題視されてきました。そこで近年、注目されているのが「音楽療法」です。

 非薬物療法の一つで、音楽を聴く「受動的音楽療法」と、実際に歌を歌ったり楽器を演奏する「能動的音楽療法」があります。国内外の治療研究ではBPSDの軽減をはじめ、認知症によって失われた自発性や活動性の促進や表情の改善、残存している体の機能の維持につながると明らかにされました。

 音楽療法は日本音楽療法学会によって認定された音楽療法士によって行われ、ドイツではすでに国家資格として認められています。当院が運営している「認知症カフェ」でも2017年から音楽療法を取り入れ、現在は週1回のペースで実施しています。

音楽療法士の赤塚望氏(提供写真)
音楽療法士の赤塚望氏(提供写真)
「キーワードクイズ」などを用いてコミュニケーション

 実際に当カフェで行っている具体的な音楽療法の流れを紹介すると、まず大阪万博のテーマソングとして有名な「世界の国からこんにちは」で日付の確認を行い、歌詞に日付を当てはめて歌唱を行います。音楽療法で用いる曲は、童謡・唱歌やかつて流行した歌謡曲をはじめ、春であれば桜に関連した曲、甲子園の時期であればテーマソング、放送中の朝ドラの主題歌など、参加者の年代やその時季に合った選曲が重要です。

 歌唱だけでなく、音楽に合わせて体を動かすストレッチや歌いながら手話をするなど、運動機能の向上を目的としたプログラムや鑑賞を挟みながら楽しめる内容を意識しています。

 また、「キーワードクイズ」などを用いて、参加者同士のコミュニケーションを促しています。これは歌詞に含まれるキーワードをいくつか提示して、そこから曲名を当てるクイズです。考えているうちに隣の席の参加者同士で会話が弾み、コミュニケーションが増えています。

 認知症を発症すると外出する機会が減り社会的孤立を招きやすくなります。何度も参加して顔見知りができると、認知症と診断されてから自信を失い塞ぎ込みがちだった方でも「〇〇さん、ここに座りなよ」と自ら他の参加者に話しかけたり、毎週参加されている方であれば「〇〇さん今日来ていないけど、どうしたのかしら」など、交友関係が構築されている光景をよく目にします。

 音楽療法はBPSDの改善だけでなく社会性や社交性の再獲得を促し、社会的孤立の解消や予防にもつながるのです。

▽赤塚望(あかつか・のぞみ) 日本音楽療法学会認定音楽療法士。2019年名古屋音楽大学卒業。現在は偕行会城西病院に勤務。

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