「お義母さんの様子がおかしいと言っても、夫は『そんなはずはない』の一点張りでした」
西日本に住む40代の女性は、夫と大学生の息子の3人暮らし。コロナ禍で2年近く電話だけのやりとりだった義母としばらくぶりに会ったところ、「以前はこんなふうではなかった」という点がたくさんあったのです。
部屋が雑然とし、料理がしょっぱい。冷蔵庫の中には賞味期限が切れた食材がたくさん入っていて、それだけではなく、テレビのリモコンやメガネなども入っている。孫を、息子の名前と間違えて呼ぶ。何回も同じことを聞く--。
女性はインターネットでいろいろ調べ、認知症を疑ったものの、いくら夫婦とはいえ、夫に「お義母さん、認知症じゃない?」とは言い出せず。冒頭のように「様子がおかしい」と伝えたのですが、夫は全く認めようとしない。そればかりか、「おふくろがボケたって言いたいのか」と怒り出す始末でした。
この女性、私が書いた記事「親の認知症を疑ったとき、本人が病院へ検査を受けに行くのを嫌がる場合、どうすればいいか」の内容を覚えていたそうです。
3つのポイントがあります。まず、ウソをついて病院へ連れて行かない。「元気で過ごしてもらいたいから、一度病院で診てもらわない?」といったふうに、真摯に気持ちを伝える。次に、「検査を受けてみてはどうか」と言う人を替える。例えば娘さんがダメなら、孫(親から見て)、孫がダメならかかりつけ医など。さらに、配偶者がいる場合、その配偶者(父親に認知症が疑われる場合などは、母親)が「私も受けるから一緒に検査を受けよう」と誘う。
子供が親の認知症を認めたがらないケースは、珍しいことではありません。「変わらないままの親でいてほしい」という強い気持ちが、現実から目を背けさせるのかもしれません。統計に出ているわけではありませんが、経験から、男性にそういう傾向があるように思います。夫婦間で妻が認知症の疑いがある場合、夫が「そんなはずはない」と認めたがらないケースもあります。
夫が義母の異変を受け入れない--。この女性は、まず義母のかかりつけ医のところへ一人で出かけ、相談したそうです。その上で、夫へもう一度「お義母さんを◎◎先生のところで診てもらっては。先生に聞いたら、ぜひと言っている」と伝えました。
義母のかかりつけ医は夫も面識があり、この人の言うことなら耳を傾けてくれるかもしれない。そう思ったからですが、果たして夫は、かかりつけ医がそう言うならと、母親を病院へ連れて行くことに同意しました。
義母自身が、これまでと違う自分に不安を抱いていたのか、「かかりつけ医の先生のところで診てもらってはどうか」と夫から切り出すと、「あんたがそう言うなら」とすぐに受け入れたとのこと。かかりつけ医の問診でアルツハイマー病の疑いがあるとの診断。かかりつけ医の紹介で、認知症をよく診ている病院を再度受診し、現在はアルツハイマー病の薬を処方してもらっているそうです。
認知症は「診断されるのが怖いから」や「早く診断されても治らないのだから」などと、本人はもとより、家族も受診を先延ばしにするケースもあります。しかし本欄で何度も伝えているように、認知症で一番多いアルツハイマー病は、早く診断し、生活習慣などのさまざまな工夫で、進行をゆっくりにできる可能性があります。
また、アルツハイマー病だと思っていたら、「治る認知症」だった、というケースもあります。
さらには、昨年承認された「レカネマブ」のように、軽度認知障害(MCI)のうちから投与すれば、認知機能低下を抑制できる新薬も登場しています。こういった新薬は今後も次々と認可される見通しです。早期対策で認知症の進行を遅らせられれば、自立したまま、人生を全うできる可能性もあるのです。