老親・家族 在宅での看取り方

患者本人は認知症…治療決定に関わる家族は信条で輸血を拒否

写真はイメージ
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 骨髄中の造血幹細胞に異常が起きる骨髄異形成症候群。これを患う84歳の男性の患者さんが、入院している病院からの紹介で、私たちのところで在宅医療を開始することになりました。

 骨髄異形成症候群は、正常な血液細胞がつくられなくなることから、息切れや動悸がしたり、細かい点状の皮下出血があらわれたりします。

 そのほか、鼻血や歯茎からの出血、倦怠感や感染に伴う発熱などの症状が見られることもあります。比較的高齢者に多い急性骨髄性白血病になりやすく、もっぱら輸血で延命することができます。

 ただ、この患者さんの場合、介護や治療の決断にかかわるキーパーソンの奥さんと娘さんが、信条の都合で輸血に抵抗があるとのこと。在宅医療を開始するにあたって輸血は基本的にやらないとの意見でした。

 当初は昨今の宗教がらみのニュースのこともあり、私たちも非常にセンシティブな問題だと思い身構えていましたが、初診でご自宅に伺うと、そこには穏やかな患者さんがいらっしゃいました。

 私はこのようにお話ししました。

「血液のご病気で異常な細胞が増えてしまっている状態で、何かあったら一気に悪くなってしまう恐れがあります。今も目を見ると貧血があると考えられます。酸素をうまく運べなくてフラッとしてしまうこともあるかもしれません。対症療法として輸血などがありますが、そちらは望まないと伺っています。お変わりないですか?」(私)

「はい」(奥さん)

 ちなみにご本人は無宗教で、認知症が進行しており、病状の把握ができているかはっきりしないとのこと。

 それでも私たちはこれから行う在宅医療についてご本人とご家族に説明をします。奥さんや娘さんは積極的な治療は望まないとのことでしたが、その考えは変化してもいいこと、血液検査や薬の処方だけでなく、場合によっては点滴をすることもでき、体調の変化を定期的に診ながら対応することをお伝えしました。

「酸素を使ったり医療用麻薬で苦しさをコントロールしたりできます。あと血小板って血を止める作用があるんですが、どこもぶつけてなくても出血してしまうことがあり、脳出血や消化管出血を起こすという方もいます。転倒をしないように細心の注意を払う必要があります」(私)

「そうなんですね。主人も交えて話すと、わかったと言いますが、認知症なのでどこまで覚えているのか。でももうしょうがないのかなって思ってます」(奥さん)

「輸血しなくても、貧血による息苦しさに対していくつか対応ができますので」(私)

「わかりました」(奥さん)

 これまでにも、さまざまな考え方や思いの患者さんやご家族と接してきましたが、みなそれぞれの思いで、最期の決断をされています。

 そんな時に我々は色眼鏡をかけず、できるだけそんな思いや願いを尊重し応えることが、在宅医療の大切な役割ではないかと考えるのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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