Dr.中川 がんサバイバーの知恵

鳥山明さんの手術報道も…「脳腫瘍」は良性なら全摘も可能

鳥山明さん(C)共同通信社
鳥山明さん(C)共同通信社

 マンガ家、鳥山明さん(享年68)の訃報が世界を駆け巡っています。その死因である急性硬膜下血腫は、外傷が原因になることがほとんどです。外傷の衝撃で脳がダメージを受けて脳挫傷を起こして、そこから出血。その血液が脳を覆う硬膜の下でたまり、脳を圧迫するのです。

 硬膜下血腫の前に「急性」とあるように、頭部への外傷や打撲などがあると、まもなく発症します。急速に悪化する危険性があるため、すぐに手術を受けることが大切です。

 一方、慢性硬膜下血腫は、出血した血液が少しずつたまるタイプ。軽微な外傷を受けてからじわじわと出血し、数カ月して硬膜下に血腫ができます。多くは3カ月程度です。実は私の母もこの病気で、元日に東大病院で手術を受けたことがありました。それだけに鳥山さんの訃報は、人ごととは思えません。

 鳥山さんを巡っては、交流があった芸人の話として「(今年)2月に脳腫瘍の手術をするとは聞いていました」ということが報じられました。脳腫瘍は、脳にできた腫瘍の総称で、良性と悪性、原発性と転移性に分けられます。

 原発性脳腫瘍の場合、悪性は大脳や中脳、小脳、脳幹などの脳実質にできやすく、良性は脳を覆う髄膜や脳神経など脳実質以外の組織にできやすいのが特徴です。150種類以上に分類される原発性脳腫瘍のうち、最も多いのが髄膜腫で、まれですが髄膜腫などの脳腫瘍が硬膜下血腫の原因になることもあります。

 脳は、頭蓋骨に囲まれた閉鎖空間で、腫瘍が大きくなるにつれて頭蓋内の圧力が上昇。頭痛や吐き気、意識障害などの症状が起こりやすくなります。さらに腫瘍ができた部位によって、その部分の脳がつかさどる機能が障害されることもあります。良性と悪性とでは、広がり方にも違いがあり、良性は正常組織との境界がハッキリしているのに対し、悪性は境界が不明瞭です。ですから、悪性は手術で取り切るのが難しいですが、良性は全摘もできます。

 脳腫瘍のリスク因子は高脂肪・高タンパク質の食事やストレス、喫煙などが挙げられます。鳥山さんは洋食を好まれていたようで、ヘビースモーカーだったとされますから、ひょっとすると脳腫瘍のリスクが重なったのかもしれません。少なくとも動脈硬化を起こしやすい生活で、それが硬膜下血腫の原因になった可能性はあるでしょう。

 いずれにせよ、世界的な異能を失ったのは事実です。鳥山さんのご冥福をお祈りします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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