介護の不安は解消できる

認知症の父親がティッシュを食べてしまいます…対応策は?

認知症の進行した方はご自身でコントロールすることができない
認知症の進行した方はご自身でコントロールすることができない(C)日刊ゲンダイ

 認知症の親を介護する家族から受ける相談に多いのが、食べ物以外の物を口にする「異食」の症状です。

 側頭葉が強く障害されて起きる症状に口唇傾向があり、これは食べられる食べられないに関係なく何でも口に入れる症状で、このうち食べ物以外の物を口に入れてしまうものを異食といいます。前頭側頭型認知症のうちピック病では比較的早くからみられますが、アルツハイマー型認知症でも進行期になるとみられることがあります。ティッシュや消しゴム、空になった錠剤のシートなど、口にするものはさまざまです。

 ピック病のお母さんを自宅で介護する娘さんは、ある日、リビングで裁縫をしていたとき、洗濯物を干そうと少しの間、席を離れ、そのまま夕食の準備を始めました。夕食の最中、お母さんは腹痛を訴え、食事もほとんど取りません。まさかと思い裁縫セットを確認すると、10本ほどあったマチ針が1本たりとも残っていない。慌てて病院を受診し内視鏡検査を行うと、なんと胃に何本も針が刺さっていたといいます。内視鏡ではすべて取り切れず、最終的には開腹して除去されました。

老年精神専門医の井関栄三氏
老年精神専門医の井関栄三氏(本人提供)
首にフェースタオルを下げ、意識をタオルに向けて

 異食でとりわけ危険なのがたばこや消毒液です。早期に発見し胃洗浄を行えば大きな問題になることはありませんが、発見が遅れて中毒を起こすと意識障害になり、最悪のケースでは死に至ります。

 認知症の方に「食べ物ではない物を口にしないで」と伝えても、認知症の進行した方ではご自身でコントロールすることはできません。異食を防ぐためにも、目につく場所に危険な物はなるべく置かないようにしましょう。ティッシュを口にする方であれば、首にフェースタオルを下げ、意識をタオルに向けてください。フェースタオルであればのみ込みの心配もなく、口で吸っても健康上の問題もありません。

 歩きながら床の物を拾って口にすることもよくありますが、そんなときはミトンと呼ばれる指全体が1つに覆われた手袋を装着すると、物を掴みづらくなるのでお勧めです。

▽井関栄三(いせき・えいぞう) 1979年新潟大学医学部卒業後、同大学大学院進学。84年横浜市立大学医学部精神医学教室入局、2010年順天堂大学医学部精神医学教授を務めたのち、16年シニアメンタルクリニック日本橋人形町を開院し、院長を務める。

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