以前、降圧薬についてお話しした際に、おしっこを出すクスリ、「利尿薬」についても触れました。高齢者の中には、継続して利尿薬を服用している方もいらっしゃると思いますが、それがどうして処方されているか考えたことはあるでしょうか? 今回から、利尿薬について詳しく紹介していきます。
利尿薬を使ううえで知っておいてほしいのは、「利尿薬を飲むとどうして尿の量が増えるのか?」という点です。尿は腎臓の糸球体というところで血液が濾過(ろか)されることで作られます。だいたい1日に150リットルの尿が糸球体で作られているとされていますが、実際、トイレに行ってそんなにたくさんの尿は出ません。糸球体で濾過された後に、水、糖、アミノ酸、ナトリウムやカルシウムなどの各種電解質が血液中に再度吸収されることで、最終的に排泄される尿の量は0.5~1.5リットルになるようになっています。
前回、クスリとしての塩について取り上げた際、「水は濃度の低いところから高いところに移動する」とお話ししました。これは尿に関しても同じで、この原理を利用して尿の量を増やすクスリを利尿薬といいます。
利尿薬にはさまざまな種類がありますが、ほとんどは「ナトリウム利尿」というメカニズムで尿の量を増やしています。濾過された大量の尿が再度血液中に吸収されるところに作用して、ナトリウムの再吸収を阻害します。すると、尿中のナトリウムが増えるので、尿の濃度が高くなります。腎臓での水の再吸収も濃度の差を利用して行われています。つまり、尿の濃度が高くなると血液との濃度の差が少なくなるため血液中に再度吸収される水の量が減少し、結果として尿の量が増えることになるのです。
腎臓のどの部分に作用するかによって利尿薬の違いはありますが、どれも基本的にはナトリウムの再吸収を抑制するナトリウム利尿になります。
ただ、「トルバプタン」という利尿薬は他の利尿薬とは効き方が異なります。ほとんどの利尿薬がナトリウム利尿であるのに対し、トルバプタンは「水利尿」によって尿の量を増やすのです。
腎臓の集合管という部位には水の動きをコントロールするところがあり、バソプレシンというホルモンが関与しています。トルバプタンはこのバソプレシンの働きを抑制することで尿から血液への水の再吸収を減らし、尿の量を増やします。現時点では水利尿で尿を増やすことができるクスリはトルバプタンだけです。
次回はこういった利尿薬が必要となる病態はどのようなものなのかについて紹介します。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方