手軽に使える市販薬も「飲み合わせ」を甘く見てはいけない

3剤併用で急性腎障害のリスク増

 体調を崩した際、手軽に購入できる市販薬で対処している人は少なくないだろう。ただ、市販薬を併用したり、服用中の薬と市販薬を同時に服用すると、思わぬ副作用を引き起こすリスクが高い。注意したい飲み合わせについて、薬剤師で「長久堂野村病院」診療支援部薬剤科科長の荒川隆之氏に聞いた。

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 薬は、医師により処方される「医療用医薬品」と、ドラッグストアやネット通販で購入できる「OTC医薬品(市販薬)」に分けられる。近年は、医療用医薬品と同様の成分が含まれる市販薬(スイッチOTC)も販売され、市販薬の選択肢が広がるが、やみくもに市販薬を併用すると深刻な副作用が生じるケースもある。

 中でも注意したいのが、主にアレルギー症状に用いられる「抗ヒスタミン薬」の重複だ。

「脳内の神経伝達物質であるヒスタミンには覚醒作用があり、抗ヒスタミン薬を服用すると眠気、判断力や集中力の低下をもたらします。実際、睡眠改善薬の『ドリエル』は抗ヒスタミン薬の副作用を利用して作られ、市販が認められていない睡眠薬に似た効果をもたらすほど、強い眠気が引き起こされるのです」

 抗ヒスタミン薬を含む市販薬は少なくない。飲み合わせに注意したい市販薬を紹介する。

■乗り物酔い薬 × 鼻炎薬

 脳の嘔吐中枢はヒスタミンによって刺激されるといわれ、一般的な乗り物酔い薬には抗ヒスタミン薬が含まれている。

■総合感冒薬 × 咳止め薬

 多くの総合感冒薬やアレルギー由来で生じる咳に対する咳止め薬には抗ヒスタミン薬が含まれている。ただ、一部のスイッチOTCには含まれていないものもある。

「抗ヒスタミン薬の多くは、添付文書にクルマの運転や高所での作業に関する注意喚起文が記載されているほど、単剤服用でも眠気を誘発します。死亡リスクのある重大事故を防ぐためにも抗ヒスタミン薬の併用は控えてください」

 さらに、便秘に近年多用されている「マグネシウム製剤」を日頃から服用している人も、市販薬との併用に注意が必要だ。

「マグネシウム製剤はそれまで多く使われていた刺激性下剤に比べて安全性が高く、市販の『ミルマグLX錠』など毎日欠かさず服用している患者さんも多い。ただ、他の薬と同時に飲むとそれぞれの薬の効果が弱まる恐れがあります。薬が持つ本来の効果が発揮されず病気の治癒が遅れたり、場合によっては悪化を招く恐れがあります」

■マグネシウム製剤 × 胃酸抑制薬

 酸化マグネシウム製剤は胃酸と結びつくことで効果を発揮するため、胃酸抑制薬と併用すると酸化マグネシウム製剤の効果が減弱する。

■マグネシウム製剤 × アレルギー専用鼻炎薬

 水酸化マグネシウム製剤は多くの鼻炎薬の主成分のフェキソフェナジンと一時的に吸着することにより、鼻炎薬の吸収量が減少し効果が弱まる。

■マグネシウム製剤 × ニューキノロン系・テトラサイクリン系の抗生物質

「併用すると抗生物質の吸収が阻害されるといわれています。併用が必要な場合は間隔を空ける必要があるので、薬局でも患者さんに対して説明を行っています」

■マグネシウム製剤 × ビタミンD製剤

 骨粗しょう症治療で用いられるビタミンD製剤はマグネシウムの消化管吸収が促進されやすい。その結果、血中マグネシウム濃度が上昇し高マグネシウム血症を引き起こすリスクが高まる。

「さらに近年、問題になっているのが『トリプルワーミー』です。解熱鎮痛薬のNSAIDs、降圧薬のACE阻害剤やARB、利尿剤の3剤を併用することを指し、急性腎障害を引き起こす原因になります。3剤を併用すると、服用から30日以内の急性腎障害が生じるリスクが1.82倍高まるという報告もあります」

 降圧剤と利尿剤を処方されている人は、市販の解熱鎮痛薬を安易に飲まないようにしたい。

 市販薬を効果が弱いものと決めつけず、多剤服用が必要な場合にはその都度、薬剤師によく相談することだ。

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