老親・家族 在宅での看取り方

在宅医療で気になることができたら大したことがないと思っても電話してください

相談しやすい雰囲気づくりが大切
相談しやすい雰囲気づくりが大切(C)日刊ゲンダイ

「いつも輸血をしていただいている者です。両腕に大きなあざができてしまって……。先生に伝えてもらえますか」

 ある日のことです。当院で在宅医療を最近始められた患者さんのご家族から、このような電話がありました。

 気になることが生じたときは遠慮なくいつでも連絡してくださいと、日頃から患者さん、ご家族にお伝えしています。

 患者さんやご家族が最初は連絡をためらい、しかし「一応、念のため」と連絡をくれ、その結果、重篤な状態に陥ることを回避できたケースは数限りなくあります。言い換えれば、その逆も。

 大したことがないように思える話でも、医師が聞けば非常に重要な病変の兆候を読み取ることができるかもしれない。

 とはいえ、どのようなときに電話したらよいのか迷うもの。患者さんやご家族の性格でも異なります。私たちが言っているのは「少しでも違和感を覚えたら」。

 患者さんご本人の違和感では「痛みが出てきた」「ほてる」「寒けがする」「動悸がする」「胸が詰まった感じがする」など。またご家族から見た様子では「呼吸の状態がいつもと違う」「変なにおいがする」「呼びかけへの反応が鈍い」「皮膚の状況が少し違う」など。場合によってはそのまま電話でお手持ちの薬から服薬をアドバイスすることも。もちろん、必要と判断すれば速やかに往診に伺います。

 冒頭の電話の主によれば、患者さんが体調を崩し嘔吐。「なぜ吐いてしまったのか? 病気の進行なのか、感染症なのか?」と心配され、それ以降、しばしば電話をいただくように。「着替えさせてあげたいから、点滴を抜いてほしい」という連絡で、自宅に伺い、点滴を抜いたこともあります。

 この患者さんの場合、老衰に近いという面もありました。少しずつ衰弱していくのは自然な容体でもあると、丁寧に説明して納得してもらい、その上でできることを一緒に探していくようにしたのでした。

 実はこのようにこまめなご相談は私たちにとってもありがたい。次回の診察で必要な物品を届けられたり、本格的に状態が悪くなる前に往診でき重症化を防げたりと、できることが広がっていくからです。

 そのためにも当院は相談しやすい雰囲気づくりに励むと共に、患者さんやご家族が安心していただけるよう、診療チームから必ず折り返しの電話をするように努めています。

 電話によるご連絡は、患者さんはもちろん、患者さんと関係するケアマネジャーや訪問看護師と診療チームをつないだりと、在宅医療において欠かせない大切な役割を担っているのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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