第一人者が教える 認知症のすべて

アミロイドβがたまり、最終的に神経細胞死滅や脳の萎縮を招く

脳内にたまるタンパク質「アミロイドβ」がアルツハイマー病に関係
脳内にたまるタンパク質「アミロイドβ」がアルツハイマー病に関係

 アルツハイマー病の発症に至るメカニズムで明らかになっているのは、脳内にたまるタンパク質「アミロイドβ」が関係しているということです。

 アミロイドβはゴミのような存在で、普通は速やかに排出されるのですが、何らかの原因で排出されなくなると、脳内に蓄積され、やがてアミロイド斑という塊になります。ゴミの塊ですね。

 これはやがてタウタンパクという別のタンパク質の蓄積を招き、さらに脳の神経原線維の変化を招きます。すると脳の神経細胞が死滅し、脳が萎縮して、アルツハイマー病発症に至るのです。

 昨年に認可されたレカネマブという薬は、蓄積したアミロイドβを減少させる働きがあります。言い換えれば、アミロイドβが蓄積されていなければ、レカネマブの威力を発揮させられません。そこで、アミロイドβの蓄積の有無を調べるアミロイドPET検査が必要となり、この検査を行う医療機関が増えているのです(まだまだ少ないですが)。レカネマブの使用目的で行うアミロイドPET検査は、決められた条件をクリアした場合、健康保険適用となります。

 私が院長を務める「アルツクリニック東京」では、2018年の開院当時から自費でのアミロイドPET検査を行っています。

 アミロイドPETは、検査機器自体が高額なため、検査費用もどうしても高額にならざるを得ません。当院の場合、アミロイドPET検査は税込み16万5000円。ただし、かつてはもっと高額で、現在は自費でもこれくらいで受けられるようになりました。

脳の状態を早めに知って対策を
脳の状態を早めに知って対策を
アミロイドPETを自費でも受ける意味

 これほどのお金を出して受ける意味はあるのか? レカネマブが登場した今、私はより一層、意味があると考えています。

 レカネマブは、残念ながらアルツハイマー病の中等症以降は対象外となっています。

 すでに神経細胞の死滅が起こってしまっていると、レカネマブを投与しても、認知機能低下抑制の効果が得づらいからです。

 レカネマブの効果は、臨床試験によると認知機能低下を27%抑制するというもの。この結果をもっと高めるために、薬の投与の時期をアミロイドβが蓄積し始めた段階と、蓄積がはっきりと確認できる段階とで比べた場合、どう違いが出てくるのかを調べる研究も行われています。

 アミロイドβの影響を受け始めるよりもっと前から薬を投与すれば、より一層、認知機能低下の抑制を高められるのではないか--。それを確認しようとしているのです。

 今後も、新たな薬が続々と登場してきます。アミロイドPET検査で早くに将来の認知症発症のリスクを知り、対策を講じていくことで、万が一認知症を発症しても、そういった新たな薬を使えるチャンスを得られる可能性は高い。私はレカネマブの登場を、認知症治療において「ようやく夜明けが見えてきた」と捉えているのですが、どんどん“明るくなっていく状況”に対し、備えておくに越したことはないと考えます。

 そしてこれは本連載でも何度となく強調していることですが、アミロイドβの蓄積が見られても、認知症を発症する前に、できる対策はたくさんある。

 アミロイドβの蓄積が始まりとなって発症に至るアルツハイマー病は、その発症まで20~30年かかります。脳の神経細胞の死滅が起こるのは脳全体のほんの一部で、全てにエラーが生じるわけではない。つまり、アミロイドβの影響を受ける脳の場所「以外」の機能を高めれば、日常生活に支障が生じてくる時期をずっと遅らせることができるでしょう。

 人によっては、認知症発症を食い止めることもできるかもしれません。認知症の原因は、アミロイドβだけではありませんから。難聴、喫煙、抑うつ、社会的孤立、運動不足、高血圧、過剰飲酒、肥満、糖尿病などが原因になることが判明しており、これらの原因を減らすことで、認知症発症回避につながる可能性が高くなるのです。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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