内臓5つ摘出も元気 建築家・安藤忠雄氏に聞く“生きる力”

「病気をしてから本を読む機会ができた」と語る安藤忠雄氏
「病気をしてから本を読む機会ができた」と語る安藤忠雄氏/(C)日刊ゲンダイ

「内臓を5つ取って生きているやつはおるけど、元気になったもんはおらん。第1号や」と、建築家の安藤忠雄さん(76)は笑う。国立新美術館で2017年12月18日まで開催された安藤忠雄展には、30万人超が詰め掛けた。18年には日仏友好160周年でパリ・ポンピドゥ・センターにて展覧会を行う(10月10日~年末)。大病を患いながら、今なお全力疾走を続ける。その力の源は何か。

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「感動」は人間が生きていくためのエネルギーです。感動は「喜び」につながります。それが「生きる力」になると思い、好奇心を刺激するような建築をつくろうと心がけてきました。

 今回、展覧会をするにあたり、原寸大の「光の教会」(1989年)を国立新美術館のテラスにつくろうと考えました。しかし法規、コスト、技術面で、大変難しい壁が目の前に立ちはだかった。それでもチームをつくってひとつひとつクリアしました。誰も見たことがないものをつくってやろうと思ったからです。

 光の教会の十字架部分にはガラスは入っていません。実は本物の光の教会も、当初の計画ではガラスが入っていませんでした。信者の方々から「それでは冬寒い」と言われ、しぶしぶガラスを入れた経緯があります。「寒いからこそ、心を寄せ合い、祈りを捧げることになるのでは」と考えていました。そこで、今回再現するにあたって、あえて原点に立ち戻ったものの考え方を提示することにしました。訪れた人たちに「もう一度、自分の人生を考え直してみよう」と思って欲しかったからです。

 75歳ぐらいまで働いて90歳まで生きる時代になりました。長い人生を生きぬくためには持続力、想像力、自己中心的に行動していくための知的体力が求められます。これが備わると、人生が面白くなります。諦めずにやり遂げる子どもたちを育てないと、日本の未来はありません。彼らが今後、どんな世界をつくっていくか、私たちは真剣に考えていかなければいけません。

■「できる限りのことをやりたい」

 最近の子どもたちは本を読みません。判断力を養い、感性を育む上で、読書活動は欠くことのできないものです。特に絵本はいい。想像力が湧いてきます。お母さんたちも本を通して子どもたちと交流することで、心がつながります。生きる力を培ってもらうために、自由に利用できて、絵本や児童本をはじめとした文化に触れられる施設をつくってはどうかと考えました。

 今、大阪市の中之島公園に「こども本の森中之島(仮称)」を建設する計画が進んでいます。建設費や運営費は寄付で賄います。ここから、「次の時代を考える子どもたち」が育っていってくれればと思っています。私自身、読書から「生きる力」をもらってきたからです。

 人生は何が起きるか分かりません。2009年、指揮者の小澤征爾さん(82)と「お互い体力だけが取りえですね」と冗談半分に話していたら、その直後にがんが見つかり、3カ月後、小澤さんもがんだと分かりました。自信過剰はよくありません。胆嚢、胆管、十二指腸を全摘しました。やっと回復したと思ったら、14年6月、主治医に「膵臓の真ん中にがんがある。大手術や」と宣告されました。

 7月10日、京都大iPS細胞研究所の山中伸弥さん(55)との対談を終え、翌朝8時から10時間、手術しました。後になって山中さんから「(手術することを)言ってくれたら」と気遣っていただきました。「できるだけ早くiPSで膵臓作ります」とも言ってもらいましたが、今はすっかり元気なので、もういりません。主治医に「5つも内臓取って生きていけるんですか」と聞いたら「生きている人はいますが、元気になった人はいません」と言われました。元気になった第1号です。

 なぜ、そこまで全力疾走するか。できる限りのことをやりたいからです。

 常に前を向いて新しいことを考え続けていると、元気になります。いいこともありました。病気をしてから、毎日、昼食後は1時間半休憩をとるようになりました。昔、最後まで読めなかった本、理解できなかった本を読む機会ができました。それがまた、私にとって「生きる力」になっているのです。

 人生100年――。ただ生きているだけでは面白くありません。人間は「青い」方がいい。「青い人間」は間違ったことをいっぱい言います。でも間違ったら修正すればいい。修正して間違ったら、また修正する。人生最後まで、「青いリンゴ」で生きていこうと思っています。

▽あんどう・ただお 1941年、大阪府大阪市生まれ。世界各国を旅した後、独学で建築を学び、69年に安藤忠雄建築研究所を設立。米イエール大、コロンビア大、ハーバード大客員教授歴任、97年東大教授、2003年から名誉教授、05年から特別栄誉教授。10年、文化勲章を受章。13年、芸術文化勲章(コマンドゥール)を受章。

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