Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

重要度が増す職場のがん健診 受診率アップと活用のコツ

ヘビースモーカーはCTも
ヘビースモーカーはCTも(C)日刊ゲンダイ

 サラリーマンの方は、職場で健康診断を受けていると思います。それが、がん検診も担っていますが、法律に基づく指針がなく、検査方法や対象年齢などにバラつきがあるという問題点が指摘されていました。

 そこで厚労省は対応に着手。「がん検診のあり方に関する検討会」を組織。その中に「職域におけるがん検診に関するワーキンググループ」を設置。私もメンバーのひとりとして議論に参加していて、近く「職域におけるがん検診に関するマニュアル」がまとまり、公表予定です。

 死亡率を下げるエビデンスを持つがん検診は、胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頚がん、乳がんの5つ。

 がん検診を受けた人のうち職場で受けた人の割合は、胃がんは58%、肺がんは63%、大腸がんは55%と男女が関わるがん検診は6割前後をキープしていますが、子宮頚がんは32%、乳がんは36%と、女性は低いのが現状です。

 そこで、マニュアルです。エビデンスを持つ公的検診をベースとしながらも、会社で行われている人間ドックなども妨げず、柔軟な運用をする方針です。

■公的検診にないメニューは?

 たとえば、胃がんの検診は公的検診だとバリウムが基本でしたが、2年前からは内視鏡も選択肢に加わりました。人間ドックなどでは、公的検診のメニューにないピロリ菌のチェックも行われています。ピロリ菌が陰性なら、胃がんのリスクはほぼなくなりますから、ピロリ菌チェックも有効です。

 大腸がん検診は、公的検診だと2回の便潜血です。それを毎年1回きちんと受ければ、8割が早期発見できるとされ、大腸がん検診が普及した米国では、大腸がんで亡くなる人が約5万人と、ピーク時の半分程度に減少したのです。

「便潜血では不安」と人間ドックで大腸内視鏡検査を受ける人もいるでしょう。家系にがん患者がいる人なら、無難な選択だと思います。ただし、そうではなくて、便潜血検査で陰性を続けている人は、大腸内視鏡検査は5年に1回程度で十分でしょう。

 それぞれの患者の背景を考慮しながら、個別化した検診を考える時代になっているのです。ですから、公的検診では肺がんのCT検査は推奨されていませんが、ヘビースモーカーには低線量CTの受診も検討すべきと思います。

 乳がんの超音波検査も同様です。家系に乳がんの人がいれば、推奨されているマンモグラフィー検査に加えて、超音波検査をプラスするのも十分あり得る選択でしょう。

 がん検診の“主戦場”は職場でのがん検診で、女性の就業率が上がっているだけに、女性の受診率アップという点でも、職場でのがん検診はますます重要になります。読者の皆さんも、ぜひ職場でのがん検診を早期発見に役立ててください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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