独白 愉快な“病人”たち

変な咳から難病発覚 大工原忍さん救ったアロマとの出合い

メディカルアロマスペシャリストの大工原忍さん
メディカルアロマスペシャリストの大工原忍さん(C)日刊ゲンダイ

「肺がんの末期かエイズかもしれません」

 当初はそんな疑いもありました。「非結核性抗酸菌症」とわかったのは、その後のことです。

 12年前の当時はほとんど知られていない病気で、発症率は10万人に1人といわれていました。医師ですら知らないことがありましたし、菌を特定できる検査も少ないとのことでした。

 簡単に言うと、誰もが吸っている空気中にある常在菌が肺に入り、肺の機能を徐々に低下させる病気です。症状は結核に似ていますが、決定的に違うのは原因菌が結核菌ではないので感染しないこと。今でこそ原因菌を特定できるようになりましたが、まだ特効薬はありません。

 病名がわかったのは31歳のときです。友人の医師に「変な咳をしているね」と言われたのがきっかけでした。自分ではどこにも異常は感じていませんでした。咳も軽い風邪程度でしたし、年に1回は健康診断を受けていたので、なんの不安もありませんでした。でも、友人から指摘されたことだったので、一応、病院を受診したんです。

 すると、CT検査で肺に白い影が広がっていることがわかりました。後々、医師からは「進行の遅い病気なので、ここまでひどくなるにはおそらく10年ぐらい前から始まっていただろう」と言われました。でも、それまでずっと水泳やランニングをしていましたし、ホノルルのフルマラソンにも参加していたんですよね(笑い)。

■強い薬の作用で体重が30キロ台に

 CT画像で肺が真っ白、でも結核菌は出ない。原因がなかなかわからず、肺がんやエイズまで疑われた後にたどり着いた検査が「肺を洗って肺の組織を採る」というものでした。口から肺に大量の水を入れて文字通り洗った後、内視鏡で組織を採ります。

 数ある検査の中で一番つらいといわれている検査のひとつだと聞きました。そんなつらい検査に耐えて乗り切ったかいもあり、土や水の中にいる「MAC菌」という細菌が悪さをしていることがわかったんです。

 ただ、その後の治療はさらに過酷でした。というのも、特効薬がないので強い抗生物質と結核の薬を飲むことになったのです。「抗生物質で菌を叩いて肺の影を小さくしてから両肺を半分に切りましょう」という方針で治療がスタートしました。

 入院が嫌だったので無理を言って自宅療養にさせてもらいましたが、検査のために肺の細胞を何カ所も切り取ったので1カ月はほぼ寝たきりでした。強い薬の作用もありみるみる痩せて、身長167センチなのに体重が30キロ台まで激減。まさに「ザ・病人」です(笑い)。でも、人には感染しないので社会生活はなんとかできていました。

■フランスでは保険が利く医療行為

 2カ月に1度のペースでCTを撮りながら、2年にわたって抗生物質を飲み続けました。でも、良くなるどころか逆に悪い菌が力をつけてきてしまったのです。それを聞いたとき「薬をやめよう」と思いました。薬で内臓が荒れ、免疫力が落ちているのがありありとわかったからです。病院に行くのもやめて、食生活をはじめ生活全般を「体にいい」といわれているものに変えました。そして、「メディカルアロマ」を始めたのです。

 アロマと聞くとリラックス効果を思い浮かべる人は多いと思いますが、抗菌作用があることも知られていて、フランスやベルギーではアロマは一部、保険が利く医療行為なんです。病気になる前から、いつかアロマを仕事にしようと勉強を重ねていた中で、メディカルアロマに出合いました。

 通院をやめてから実際にフランスへ出向き、医療グレードのアロマを扱う薬剤師と直接交渉して輸入を始めました。そして抗菌作用の強いアロマを選んで、毎日飲んだり、吸引やジェルに混ぜて胸や背中に塗布したりしました。

 それを3カ月ほど続けた頃、ぷっつり行かなくなった病院から電話があり、「とにかく来なさい」ということで再び病院へ行きました。で、検査してみると、肺の白い影が小さくなっていたのです。これには医師もビックリしていました。その後も定期的に検査を続け、1年後には肺の影はほぼ消えました。再発しないように免疫力を落とさない生活習慣が今を支えています。

 食材は無農薬、とりわけ自然栽培にこだわり、グルテンを控え、コンビニのものは食べません。洗剤も原料を選んで買いますし、味噌や漬物、化粧品、リンスなど自作するものが多くなりました。睡眠は7時間を心掛けています。そのすべてが功を奏したのでしょう。中でも、メディカルアロマの抗菌作用が私には効果的だったんだと信じています。

▽だいくはら・しのぶ 1974年、東京都生まれ。「メディカルアロマ」に興味を持ち、本場フランスで医療アロマの現状に触れる。2008年に株式会社エクサスコーポレーションを設立し、アロマスクールやサロンを展開。アロマに関する講演や執筆、商品の開発・監修など医療とアロマの懸け橋的存在として芳香産業全般に携わっている。日本オーソフィトセラピスト協会理事長、日本アンチエイジング歯科学会理事も務める。

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