がんとは何か

<2>象がほとんどがんにならないのはなぜ?

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんは遺伝子の病気だ。大気汚染や化学物質などによる遺伝子の損傷や細胞分裂するたびに、わずかな確率で発生する突然変異の蓄積によって引き起こされる。

 これが本当なら、より大きくてより細胞数が多い動物は、人間よりもがんになりやすいはず。ならば人間の100倍を超える体重があり、細胞数も多いであろう象は10年くらいでがんになり、すべて死んでもおかしくない。ところが、象は60年以上生きて、ほとんどがんにならない。なぜなのか?

 この疑問に答えたのが米国のユタ州立大学医学部の研究グループだ。米国医学雑誌「JAMA」(2015年10月8日電子版)に掲載された医学論文によると、動物園の記録を分析したところ、象ががんで死亡する確率は5%未満であることが判明。一方、人ががんで死亡する確率は最大で25%だった。また、人と象の血液検査を行い、がん抑制遺伝子といわれるP53遺伝子を調べたところ、人にはP53のコピーが2つしかないのに対し、象には40コピーあったという。東京大学元医学部長で同大名誉教授(病理学)の石川隆俊氏が言う。

「P53は細胞の中にあるタンパク質で、傷ついた遺伝子を修復するか、修復不能な遺伝子を細胞死(アポトーシス)に導くなどの働きがある。人に限らず、がんの半数以上の原因はこのP53遺伝子の異常が関係しているといわれています」

■抑制遺伝子が人間の20倍

 さらに、アフリカゾウとアジアゾウ8頭の血液と、健康な11人、さらにはリ・フラウメニ症候群(P53遺伝子が1コピーしかなく90%が生涯にがんを発症する)の患者10人の血液に放射線を照射し、DNAに損傷を与える実験を行った。

 その結果、象のP53遺伝子は人のそれに比べて、損傷した細胞を修復するよりも死滅させる比率が高かった。その数はなんと健康な人の2倍以上、リ・フラウメニ症候群患者の5倍だった。

「つまり、象ががんにかかりにくい理由は少なくとも、遺伝子が傷ついた細胞などをいたずらに修復しようとせずに、さっさと殺してしまうというプログラムとそれを実行するP53遺伝子が人間の20倍あるからだ、と考えられるのです」(石川教授)

 問題は、象ががんに強いというより、なぜ人はがんに対して弱いのか? ということ。

 人は象と違ってがんリスクを高める生活習慣を持つ。飲酒や喫煙、ストレスから来る過食と肥満がある。

 いずれも高度な管理社会で生きる人間が抱えるストレスから逃れる手段だ。逆に言えば、ストレスさえなくせば人のがんは相当数予防できるということなのだろうか。

関連記事