前から気になっていることを、ここでひとつ話しておこう。インスリンを使用している糖尿病患者が、映画などのフィクション作品でどう描かれているかである。
本物の患者から見れば、的確に描かれていたためしがないと言ってもいいほど、それはしばしば誤解に満ちた描写になっている。
たぶん、糖尿病患者は「インスリンがないと困る」「意識を失うことがある」という生半可な知識だけに基づいて描いているのだろう。メカニズムまで理解しているわけではないので、頓珍漢(とんちんかん)な描写になってしまうのだ。
あえて作品名は掲げないが、典型的な例として、ある近未来物のアクション映画で描かれていた場面はこうである。
外部との連絡が途絶えた閉鎖的な状況で、糖尿病患者である一人の少女が、インスリンを切らしてしまったためにぐったりしている。見かねた子供たちが、乏しい食料の中から彼女にチョコレートを差し出すと、彼女は「ありがとう」とかすかにほほ笑んで、力なくそれを口に含む。
どう考えてもつじつまの合わない場面である。
まず、1日や2日インスリンが打てなかったからといって、ぐったりするなんてことは、ほとんど考えられない。
血糖値が上がり過ぎれば、糖尿病性ケトアシドーシスと呼ばれる重篤な症状を示す場合もあるが、糖尿病患者がぐったりするとすれば、どちらかというと低血糖が原因だろう。
インスリンが打てない状態にあるのに低血糖を起こすことはありえないし、逆にもしも彼女が糖尿病性ケトアシドーシスでぐったりしているのだとしたら、その上さらに糖分を補給するなどもってのほかである。
これに類する場面を、僕は国内外の映画で少なくとも5回は見ている。インスリンが、高すぎる血糖値を下げるための薬なのだということさえきちんと理解していれば、こんな描写になるはずがない。見ていて一気に感興をそがれないためにも、もう少しきっちりウラを取っていただけないものかと思う。
患者が語る 糖尿病と一生付き合う法