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介護で頻発する高血圧への過剰な心配と低血圧への無頓着

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写真はイメージ(C)PIXTA

 介護の現場でよく起こる事件のひとつに、利用者が「食後意識を失う」「そのせいで椅子から落ちる」というものがあります。大部分の人は横になっていると自然に回復し、元の状態に復帰します。そのため、大きな問題にはならないことが多いのですが、場合によっては救急車の出動を要請し、病院に搬送ということになる場合もあります。もちろんこうした状況では、心筋梗塞や不整脈などの重大な病気が起こっている場合もあるので注意が必要ですが、その多くは食後低血圧という状態です。

 食事を取ると、食べたものを消化しようと胃や腸に血流が集中します。その結果、相対的に頭に向かう血液量が少なくなり、食後座っているときや、立ち上がろうとしたときに脳の血流が不足して意識を失うというわけです。この背景にはもともとの血圧が低かったり、降圧薬による血圧の下がりすぎがあります。さらには糖尿病やパーキンソン病など、自律神経の異常をきたす病気でも起こりやすい面があります。食後はすぐに立ち上がらない、立ち上がる前にこぶしを強く握ったり足を踏ん張ったりしてから動くなどの対応でかなり予防することができます。

 また、血圧が高いので入浴をさせてもらえず、余計な降圧薬を追加されたために食後に血圧が下がりすぎて失神し、というようなことがかなり頻繁に起こっていることが予想され、血圧が高い人に降圧薬を追加することをやめれば一部は予防可能です。

 介護現場における高血圧に対する過剰な心配と、低血圧に対する無頓着という問題はここでもはっきりしています。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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