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アメリカ2州で妊娠中絶がほぼ全面禁止 避妊を制限する州も

妊娠中絶への厳しい罰則を公約に掲げたトランプ大統領
妊娠中絶への厳しい罰則を公約に掲げたトランプ大統領(C)ロイター

 アメリカの各州で非常に厳しい妊娠中絶法が次々に成立し、全米に衝撃を与えています。

 アラバマ州では15日、妊娠中絶を全面的に禁止する法律が成立。レイプ、近親相姦などの例外もなく、妊娠中絶の手術をした医師には最高99年の禁錮刑が科されることもあるという厳しい制度です。

 ジョージア、オハイオの2州では、アラバマ州に先駆け、胎児の心臓の鼓動が探知された時点以降の中絶を禁止する法が成立。胎児の心臓の鼓動が聞こえるようになるのは早ければ妊娠6週間で、多くの女性はそれまで妊娠に気付かないことから、事実上の全面禁止と考えられています。

 この2つの新法の背景には、「胎内にいる赤ちゃんの人権も認めるべき」という主張があります。それに従うと、ジョージア州の場合は胎児も扶養家族として税控除の対象にできる一方、妊娠中絶を受けた女性に殺人罪が適用される可能性があり、流産した場合でも10~30年の禁錮刑が科されるという解釈も可能です。

 オハイオの州法は、解釈によっては避妊も禁止の対象になりえます。少なくとも保険適用外になり、避妊リングのような10万円を超える高額治療は一般人には手が届かないものになると懸念されています。

 アメリカでは連邦レベルで1973年に妊娠中絶が合法化されていますが、キリスト教福音派を中心とした根強い反対運動が続き、保守派の政治課題になっていました。

 ところが、妊娠中絶への厳しい罰則を公約に掲げたトランプ大統領が当選。来年の大統領選を有利に戦おうとする保守共和党の思惑が重なって、今年すでに7つの保守州でより厳しい妊娠中絶法が成立しているのです。

 これらの法律は今後、母体の権利を訴える団体などにより裁判に持ち込まれ、最終的に施行されるかどうかが審議されるとみられています。保守派はその過程で連邦レベルでの妊娠中絶法の撤廃を狙っています。連邦最高裁は、トランプ大統領の2人の判事指名で保守が多数となっているため、その可能性も十分考えられます。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

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