休職させない精神科医療

減酒、睡眠、運動…生活習慣を変えればメンタルは安定する

人生に悩みはつきもの。上手に悩む
人生に悩みはつきもの。上手に悩む(C)日刊ゲンダイ

 サラリーマンのうつ病治療に長い休職は必要ない。さらに、うつの8割に薬は無意味と主張する、「独協医科大学埼玉医療センター」(埼玉県越谷市)こころの診療科教授の井原裕医師(円内)。彼が提唱するのは「生活習慣精神医学」。うつ病や双極性障害の背後に、睡眠・食事・運動などの生活習慣の不整があり、それを修正すれば改善は得られる。さらに、心の健康に悪影響を及ぼすのがアルコール。酒量を減らし、休肝日を設け、いっそ断酒すれば、メンタルはよくなると井原医師は言う。

「アルコールを減らせば、メンタルはよくなる。ゼロにすれば劇的によくなる。睡眠覚醒リズムを安定させる、1日7000歩程度の適度な歩数を歩く、糖質の取りすぎを控えるなど、生活習慣の修正ポイントはいくつもある。どれを実行してもよくなります。すべて実行すれば、驚くほどよくなります。こんな強力な治療法はありません」

 食生活については、甘いものや白米に含まれている糖質が現代人の食生活では多くなりがちなので、これを減らし、野菜や豚肉、鶏肉を中心とした食事にする。あとは海産物や牡蠣などに含まれている亜鉛を多く取ることも井原医師は勧めている。

「これらを実行することで、私のところに来る患者さんの薬はどんどん減っていきます」

 かつて、「うつは心の風邪」というキャッチワードの下、疲れたサラリーマンが次々に「うつ病」と診断され、抗うつ薬を服用させられた。しかし、その8割に薬は無意味だったと井原医師は言う。そして、うつ病ブームが一段落すると、今度はかつてのそううつ病が「双極性障害」と改名され、さらに双極性Ⅱ型という「プチそううつ病」も追加され、うつが治る際の一過性の気分高揚も「双極性障害」と診断されるようになった。こうして「プチそううつ病」を含むすべての「双極性障害」に対し、「生涯にわたる薬物療法が必要」と主張され始めた。この情報操作が、働く人の心の健康を損なう一因になっていると井原医師は語る。

「本来は、アルコールを減らし、やめて、睡眠を十分取り、体を適度に動かすなどして、生活習慣を修正すればよくなるはずだったのです。その程度の気分変調を、やれうつ病だ、やれ双極性障害だとカラ騒ぎして、次々と薬を飲ませ、それも延々と飲ませ続けるのはどうかと思います。長寿社会は最近始まったのに、それ以前の時代に若い人たちから取ってきたデータで、いったいどうして『生涯にわたって薬物療法が必要』と主張できるのでしょうか。

 もちろん精神疾患の一部に薬物療法は必要です。でも、必要な患者に、必要な薬を、必要な量だけ、必要な期間に限って、控えめに使うのが大原則。今は病気とはいえない、悩める健康人も精神科を受診します。人生に悩みはつきもの。上手に悩みましょう。そのために必要なのは健康な生活習慣。薬ではありません」

 令和改元の10連休以降、深刻な五月病に悩んでいるという人も、精神科を訪れる前に夜更かしや飲酒をしすぎていないか少し考えてみるのがよさそうだ。

(フリージャーナリスト・里中高志)

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