出世魚のスズキは高タンパク低脂肪の典型的な白身魚です。
春がタイ、冬がヒラメなら、夏はスズキ。いまが旬ですから、一年中で最も豊富な栄養分を、最もおいしくいただきたいものです。
良質なタンパク質は体力向上、代謝促進に欠かせませんし、スズキには血液をサラサラにして認知症予防、改善効果のあるEPAやDHAも含まれています。免疫力を高め、筋力増強にも役立つなど全身に作用するビタミンDが豊富な点も見逃せません。
スズキのビタミンDは皮に多く含まれていますので、今回の唐揚げやムニエルはもちろん皮を付けたまま調理します。
豊富な栄養分を余すところなく、おいしくいただくのが重要なポイントですから、唐揚げは二度揚げによって中はフワッと、表面はパリッと仕上げます。
揚げた食材を油から離し、2、3分、置いておくことで、中の水分が表面に出てきます。もう一度、揚げることによって水分を飛ばせるので、表面がカリッとするのです。
今回は大根おろしに豆板醤を加えたソースで召し上がっていただくことにしました。豆板醤の豊かなコクとまろやかな辛味が、スズキの味をさらに引き立ててくれるはずです。
《材料》
◎スズキの切り身 2切れを骨があればそぎ取り、大きめの一口大に
◎醤油 大さじ2
◎酒 大さじ2
◎にんにくすりおろし 小さじ4分の1
◎黒胡椒 少々
◎片栗粉 適宜
◎揚げ油 適宜
◎大根おろし 適宜
◎豆板醤 小さじ1
◎米酢 大さじ1
《作り方》
(1)醤油、酒、にんにく、黒胡椒を合わせ、スズキの切り身を15分漬け込む。水気を軽く拭き取り、片栗粉をまぶす。
(2)中温に熱した油で薄いキツネ色になるまで揚げたら取り出し、いただく直前に170度の油で再度、表面がカリッとするように揚げる(写真)。
(3)大根おろしの水分を軽くしぼって揚げたスズキの上にのせ、豆板醤、醤油、米酢を合わせたものをかけていただく。
【ムニエルを焦がしバターソースで】
スズキの切り身を、白ワインビネガー大さじ1、オリーブオイル大さじ2、塩小さじ2分の1、にんにくすりおろし小さじ4分の1、白胡椒少々を合わせたものに15分漬ける。水気を軽く拭き取ったら、薄力粉を茶こしなどを通して薄く丁寧にまぶし、多めのオリーブオイルで皮から焼いてふたをする。頃合いを見てふたを取り、白ワイン大さじ2を加えてフランべ。表面をカリッと焼いたら取り出す。鍋にバター大さじ1を加えて焦がし、スズキにかける。好みでレモンをしぼるとよい。
▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。
【鱸の唐揚げのピリ辛大根おろし添え】ビタミンDが豊富な皮ごと二度揚げに
今回は、鱸。この漢字は難しい。魚偏の右側の旁は、中国の古いコンロのことで、真っ黒な魚という意味が語源らしい。ちゃんと書ける人はほとんどいないだろうし、読む方もおぼつかない?
でも、心配ご無用。スズキは読むものではなく食べるもの。そして食べる旬は初夏。まさに今。スズキは冬に産卵期を迎えるが、この時期はオスもメスも生殖腺に栄養を取られ、身が痩せてしまう。暖かい海でたくさんエサを食べてしっかり太る今ごろがいちばん肉質がよい。
外側は真っ黒で口が大きく、シーバスとも呼ばれるが、内側の身は真っ白。血合いもクセもない、きれいな白身はそのままでも、調理してもおいしい。独特のコリコリ感がある。一般的に言って、タンパク質は動物の肉よりも魚がよい。同じ魚なら赤身より白身がよい。これは健康科学の常識。そのわけは含まれる脂にある。魚の白身には不飽和脂肪酸が多く、心臓血管疾患の予防に働く。
ときに、スズキは出世魚。大きくなるにつれ、コッパ、セイゴ、フッコ、スズキと呼び名が変わる。泳いでいるだけでどんどん出世するなんて、サラリーマンにとってはうらやましい限り。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。