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切り昆布は体をアルカリ性に近づけるうま味成分のかたまり

ツナ、ニンジン、ピーマンとの炒めもの(手前)と切り干し大根とのハリハリ漬け風
ツナ、ニンジン、ピーマンとの炒めもの(手前)と切り干し大根とのハリハリ漬け風(C)日刊ゲンダイ
風土の恵みを味わう①

 日本には独自の食文化があります。四季があり、四方を海に囲まれた島国だからこそ、先人たちは環境に合った食生活を営み、それを維持してきました。日本の風土から生み出された食材や料理が我々、日本人に適しているのは言うまでもありません。

 風土に合った食事がなぜ、体に良いのかは福岡さんにご説明いただくとして、そういった食材は意外と身の回りや冷蔵庫に常備されていたりします。そのひとつが切り昆布です。

 スーパーなどで売られている生のものを利用しても構いませんが、今回は乾燥したきざみ昆布を使いました。保存が利きますし、水で簡単に戻せるため扱いが簡単だからです。

 昆布は栄養学的にも理想の食材です。

 人が老ける大きな要因は酸化です。最近の日本人の食事は肉や加工食品などを多く摂取する傾向があり、体が酸性になりがちです。酸性になると疲労が蓄積されるし、さまざまな病気を誘発するといわれています。昆布は酸性に傾いた体を、健康を保つ弱アルカリ性に近づける代表的な食材なのです。うま味成分のグルタミン酸も豊富なので、おいしくいただけます。

 乾燥した昆布を台所の棚にしまっている方は多いでしょうし、ニンジンやピーマンも冷蔵庫にありがちな野菜です。今回は、自宅にある食材を使った炒め物にしました。身近な缶詰のツナを合わせたのは、いいダシが出るからです。ダシに使われる昆布と炒めることで、うま味はさらに増します。

 同様に昔からある切り干し大根と合わせたハリハリ漬け風は、酒のつまみにもなりますし、酸味が効いて食欲も増します。

《材料》
◎切り昆布 25グラムを5分水に漬けて戻したら、水気を切っておく(写真)
◎ごま油 大さじ1
◎ツナ缶 2分の1カップの油を切る
◎三温糖 小さじ1
◎酒 大さじ3
◎ニンジン 5センチを繊維に沿って千切り
◎醤油 大さじ1
◎ピーマン 2個のワタを除き、長さ5センチの千切り

《作り方》 
 フライパンに中火でごま油を熱し、ツナを炒めたら昆布を加える。三温糖と酒を加えたら、さらに汁気がなくなるまで炒める。醤油を加え、ニンジンとピーマンを入れて火を切り、さっと合わせる。

■切り干し大根とのハリハリ漬け風簡単漬物

 切り昆布10グラムを戻したら、2、3カ所包丁を入れる。切り干し大根20グラムも水で戻し、何度も水洗いをし、臭みが消えたらしっかり絞って1カ所包丁を入れる。小鍋に酒大さじ3、醤油大さじ2、米酢大さじ1と2分の1、タカの爪少々、ショウガの千切り大さじ1を合わせ、さっと煮立てる。粗熱が飛んだら切り昆布、切り干し大根と合わせて冷蔵庫で1時間置くと薄味でいただける。密閉容器で3、4日冷蔵保存可能。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

切り昆布
切り昆布(C)日刊ゲンダイ
日本人の腸内には海藻を分解できる微生物がいる

 中学生の頃だったか、社会科の先生が夏の宿題を出した。どうして西洋世界は、地球を征服するに至ったのか?という大きな問題だった。これは、なぜアジアやアフリカのほとんどは西洋の植民地にされてしまったのか、という問いでもある。あるいは、なぜ白人が覇権を握ったのかとも読み替えられる。

 今となっては先生の解答が何だったのかよく思い出せない。中学生には荷が重い課題だったが、結局、学生たちに「風土」の問題を考えさせようとしていたのだと思う。

 人種として白人が優れていたのではなく、彼らがたまたま、衣食住及び武器製造に有利な場所に住み着いたから優位に立てたのである。後になって、それは和辻哲郎が古典的名著「風土」で言っていたことだし、あるいはジャレド・ダイアモンドのベストセラー「銃・病原菌・鉄」のテーマでもあることを知った。

 さて、日本人とフランス人の腸内細菌を調べると、日本人の腸内には海藻を分解できる微生物がいるが、フランス人にはほとんどいないという。これは、食環境に応じて腸内細菌も適応しているということ。風土に合った食事を食べるべきだという如実な証拠である。

 昆布は、うま味アミノ酸を大量に含むダシの王者であるとともに、ヨウ素などミネラルも豊富。日本人の食に欠かせない風土食だ。古来、北海道から全国に昆布を輸送した「昆布ルート」まであった。ぜひ風土の恵みを味わおう。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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