ようこそ!不老不死レストランへ

木綿豆腐は水切りのひと手間で塩分を控えて味と食感アップ

木綿豆腐のステーキトマトソース添え(左)と簡単和え物
木綿豆腐のステーキトマトソース添え(左)と簡単和え物/(C)日刊ゲンダイ
風土の恵みを味わう<3>木綿豆腐

 大豆を原料にする豆腐は、古くから日本にある栄養豊富な風土食です。

 中でも木綿豆腐は絹ごし豆腐と比べて水分が少ない分、タンパク質、脂質、カルシウムが豊富です。植物性タンパク質や脂質に多く含まれるリノール酸は血管疾患のリスクを軽減し、カルシウムは骨や歯をつくる重要な栄養素です。

 冷ややっことしてそのままでもおいしくいただけますが、今回は水分の少ない木綿豆腐をさらに水切りしてステーキと和え物にしました。

 水切りをすることによって、豆腐自体の味が濃くなるうえ、他の味が染みやすくなるからです。つまり使用する調味料が少なくて済むのです。塩分を控えることは不老不死レストランの大きなテーマでもあります。

 特にステーキは水を切ることで、表面がカリッとしますので、食感もよくなります。

 水切りは木綿豆腐をペーパータオルで包み、まな板で挟んで1時間おきます。こうすると、かなりの水分が抜けます。

 料理をするうえで下処理は大切です。調理をする前にひと手間かけることで、出来上がりが大きく違ってきます。塩分を控え、なおかつおいしくいただけるのです。

 ステーキはトマトの酸味を利かせたソースを合わせます。豆腐を1丁丸ごと使いますので、ボリュームもあります。

 和え物はザーサイとハムの塩分だけでいただきます。そのまま、おつまみとしても、おかずとしてご飯の上にのせても召し上がれます。

■ステーキをトマトソースで

《材料》 
◎木綿豆腐 1丁をペーパータオルで包み、まな板で挟んで1時間置いて水を切る(写真)
◎薄力粉  適宜
◎オリーブオイル  大さじ1×2
◎にんにく みじん切り小さじ1
◎ミニトマト 2分の1パック分(約10個)のヘタを取り、半分または4分の1に切る
◎酒  大さじ3
◎米酢  小さじ1
◎醤油  大さじ1
◎白こしょう  少々
◎万能ネギ  10本を小口切り

《作り方》 

(1)小鍋でオリーブオイル(大さじ1)とにんにくを中火で炒め、香味が立ったら、ミニトマトを加える。トマトがしっかりと煮崩れ、汁気が出てきたら酒、米酢、醤油、白こしょうの順に加え、好みの感じに煮詰める。
(2)水切りした豆腐に茶こしなどを通し、まんべんなく薄力粉をふる。フライパンでオリーブオイル(大さじ1)を中温で熱し、豆腐を加える。フタをして1面ずつ丁寧に香ばしく焼いたら、皿にのせる。
(3)トマトソースを温めて豆腐にかけ、万能ネギをあしらう。

■簡単和え物

 水切りした豆腐とゆで卵の黄身を手で崩し、ゆで卵の白身、ザーサイ、ハムのみじん切りと合わせる。米酢大さじ1と2分の1、こしょうを加え、好みで香菜のざく切りと合わせる。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

歯ごたえがあり栄養素も濃縮(木綿豆腐の水切り)
歯ごたえがあり栄養素も濃縮(木綿豆腐の水切り)(C)日刊ゲンダイ
木綿と絹ごし 豆腐の製法と栄養分の差異

 豆腐の製法をおさらいしておこう。「腐」の文字があるが、発酵食品ではない。大豆を搾ると豆乳がとれる。その字のごとく、ミルクと同じくらいタンパク質に富んでいる。大豆ほど良質のタンパク質を含んだ植物性食材はないので、大豆は畑の肉などと呼ばれる。豆乳に、“にがり”を加えると大豆タンパク質が網目状に凝集し、プリンのようなぷりぷりのカタマリとなる。これが豆腐。

 にがりとは海水からとれる塩化マグネシウムを主体とするミネラル成分。マグネシウムイオンがタンパク質表面の電荷を中和するので、タンパク質同士が近づいてくっつくという仕組み。このままいただくのが絹ごし豆腐。

 いったん豆腐を崩して、布を敷いた箱に入れ、圧縮・脱水・成形したものが木綿豆腐。表面に布の跡がつく。搾った分、木綿豆腐は歯ごたえがあり、栄養素(主にタンパク質)も濃縮されることになる。そのかわり水溶性のビタミンなどは抜けやすいので、絹ごしの方に多く含まれる。絹ごし、木綿の差は、実は、絹や木綿の布でこしているからではないのである。

 豆腐の食感は楽しい。いろいろな料理に利用される。栄養も豊富。夏でも冬でもおいしい。こんな便利な食材を誰がいつ考えたのか、今となってはわからないが、大豆はアジア圏で紀元前から栽培されていたので、偶然発見されて、アジア独自の風土食となったのだろう。日本では、江戸期の本に登場する豆腐小僧という可愛い妖怪がいる。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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