ようこそ!不老不死レストランへ

ふわふわ卵サンドは薄味だからこそ塩分を控えて豊富な栄養素をいただく

ふわふわ卵サンドと大理石卵
ふわふわ卵サンドと大理石卵(C)日刊ゲンダイ
完全食 (1) 鶏卵

 卵は食物繊維とビタミンC以外のあらゆる栄養素を含む完璧な食材です。ひよこが一羽育つわけですから、栄養学的に、いかに優れているかが分かります。抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸や記憶力アップにつながるコリンなども含まれています。

 体内でつくられない必須アミノ酸を豊富に、しかもバランス良く含んでいるため、非常に良質なタンパク源といえます(タンパク質は1個当たり7グラム)。

 コレステロールが含まれているため「1日1個まで」と言われたこともありますけど、厚労省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」は摂取量に関して「目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかった」としています。卵を食べることで摂取するコレステロールの量が、そのまま血中のコレステロール値に反映されるわけではないからです。コレステロールはそもそも、人間にとって欠かせない成分でもあります。

 卵自体の味が薄いからといって、必要以上に塩分を加えるのは賢明ではありません。重要なのはあくまでも素材の味を生かすこと。味が薄いからこそ逆に塩分を控え、卵本来のうま味を味わうべきです。塩分を控えることは、不老不死レストランの大きなテーマでもあります。

 なので、卵サンドの塩分はパンに塗ったマヨネーズだけ。中に挟むふわふわのオムレツに塩気は足しません。茹で卵にひびを入れて、醤油に漬け込む大理石卵にしても、味が入るのは主にひびの入った部分ですから、塩分は控えられます。

 固ゆでにする場合はともかく、卵は火を通すというより、余熱で調理する感覚が大切です。オムレツも余熱で調理するからこそ、ふわふわに仕上がるのです。

■ふわふわ玉子サンド

《材料》 
◎卵 4個
◎バター 大さじ1
◎サンドイッチパン 6枚
◎マヨネーズ 適宜

《作り方》
(1)パンにマヨネーズを薄くぬる。
(2)ボウルに卵を割り、カラザを除き、白身を切りながら空気を入れるようにとく。
(3)フライパンを中火で熱し、濡れた台拭きなどの上に乗せて鍋底の温度を均等にしてから中火の弱の火にかけ、バターを加えて溶かす。箸先の卵液でフライパンの温度が上がっていることを確かめたら、卵液を流し入れる。ひと呼吸おいてから箸で大きくゆっくり混ぜ、半熟の状態で火を切り、余熱で仕上げる(写真)。パンの上に広げ、サンドイッチに仕立てたら耳を落とし、半分の大きさに切る。

■大理石卵

 醤油4分の1カップ、酒大さじ2、みりん大さじ1を煮立てる。別の鍋に水、卵4個、塩を加えて室温で10分おいてから中火にかける。ふつふつとしてきたら、卵黄が真ん中に位置するように箸で鍋中を軽く30秒ほど混ぜて水流をつくる。15分茹でたら水に取り、殼全体にひびを入れ、煮立てた醤油液に漬け、冷蔵庫でひと晩おく。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

予熱で仕上げるのがコツ
予熱で仕上げるのがコツ(C)日刊ゲンダイ
卵白のタンパク質と卵黄の油脂は生命発生のためのエネルギー源かつ資材源

 卵は完全食。生命の誕生に必要な栄養素(アミノ酸、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなど)がすべて十全に含まれている。タンパク質の良し悪しを示すアミノ酸スコアは満点。卵白はタンパク質のかたまりで、卵黄は油脂のかたまり。どちらも生命発生のためのエネルギー源かつ資材源。鶏にとっては災難だが、人にとってこれほど有用で安価な食材もない。

 卵黄の構造は実はとても複雑。内部は、タンパク質の網目構造と脂質が交互に重なったミルフィーユ構造からなっている。黄身のコクは、大量に含まれるレシチンという油脂の舌触りによる。レシチンは、鶏にとっては細胞膜の材料となるが、食べる側の人間にとっては、コレステロール低下作用がある。

 卵黄の色は餌に含まれるカロテノイド(植物由来の黄色色素)がどれくらい移行したかによる。トウモロコシ、オレンジの皮などをたくさん与えると濃い黄色になる。少ないと白っぽくなる。

 ふわふわトロトロの絶品オムレツを作るには、ちょっとした食品の科学がいる。卵白をかき混ぜるとき、いかに空気を取り込むかがふわふわ感を決める。そして白身が固まる温度(60度台)と、黄身が固まる温度(70度台)の中間で微妙に火を止めるとトロトロの出来上がり。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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