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栄養豊富なしらすをマヨネーズとチーズの塩分だけで洋風に

しらすのトーストとガレット
しらすのトーストとガレット(C)日刊ゲンダイ
完全食(3)しらす

 しらすはカタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシなどの稚魚の総称です。

 含まれる水分が多いものから釜揚げしらす、しらす干し、ちりめんじゃこと呼ばれます。

 大根おろしと和えたものや、山椒と炒め煮にしたちりめん山椒など、和食として利用されるケースが多いですけど、洋食としてもおいしくいただけます。

 メインはローラーでつぶしたパンの上に、マヨネーズと卵黄と和えたしらす干しをのせて焼いたトースト。もう一品はパルメザンチーズと薄力粉を合わせてフライパンで薄く焼き上げたガレットです。ガレットはフランスの郷土料理で、丸く薄いものを意味します。

 どちらも、シャレたおつまみとしていただけますので、人を呼んだときのオードブルなどに便利です。和風のしらす干しを使って洋風のちょっとした一品に仕立てる調理法を覚えておくことで、料理の引き出しは増えますし、食生活も豊かになります。

 しらすは歯や骨の形成に不可欠なカルシウムやビタミンDが豊富で、カルシウムは牛乳の2倍も含まれています。良質なタンパク質に加え、動脈硬化や認知症予防に効果があるビタミンB12も豊富です。小なりとも魚の骨や内臓も含めて丸ごと食べられるわけですから、栄養価は申し分ありません。

 稚魚を塩茹でしているため、トーストもガレットも余計な塩分は加えません。トーストはマヨネーズ、ガレットはパルメザンチーズに含まれるものだけで十分です。しらすは水分が多く劣化しやすいため、冷凍保存がお勧めです。

■しらすトースト

《材料》 
◎しらす干し(できるだけ細かいもの) 1カップ
◎角切りトーストパン 4枚の耳を切り落とす
◎マヨネーズ 4分の1カップ
◎白胡椒 少々
◎卵黄 1個分
◎白ゴマ 大さじ1
◎シブレット(セイヨウアサツキ)または細ネギの小口切り 適宜

《作り方》
 トーストパンにローラーをかけて厚さ2ミリ程度につぶし、4つに切る。しらす干し、マヨネーズ、白胡椒、卵黄、白ゴマをまぜ合わせ、パンの上にたっぷりのせる。オーブントースターなどで焼き色がつくまで焼き、焼き上がりにシブレットの小口切りをのせる。

■ガレット

 細かめのしらす干し1カップ、パルメザンチーズ4分の1カップ、白胡椒少々、牛乳大さじ1をまぜ合わせたら、茶こしを通して薄力粉(大さじ1~1と2分の1)を振り入れて、さらにまぜておく。フライパンを中火で熱し、オリーブオイルを少量ひく。弱火にしたら、材料をまぜたしらす干し(大さじ1)を入れて形を整える(写真)。1分くらい焼き、スパチュラ(料理用へら)の背の部分で軽くつぶして5ミリ程度の厚さにする。さらに2~3分焼き、上下を返し、カリッと焼き上げたら、ペーパータオルで余分な油をきる。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

フライパンで焼くだけ
フライパンで焼くだけ(C)日刊ゲンダイ
カルシウム、タンパク質、必須脂肪酸…すべての栄養素を丸ごと摂取

 海辺の鳥を見ていると、大きな魚をくわえたくちばしを天に向けてそのまま喉に丸のみしていることがある。このあと胃の中でゆっくり消化するわけだが、味覚を楽しむ暇もないのは文字通り、ちょっと味気ない。

 とはいえ、生命体を頭から尾まで一匹全部丸ごと一挙に摂取できるわけだから、もっとも合理的な食事を実行しているわけだ。さすがに我々には真似できないが、ひとつだけ方法がある。それは魚がまだ、ごく小さいうちにいただいてしまうこと。しらすは沿岸部に群泳しているイワシの稚魚。一度、熊本で漁船に乗せてもらったことがあるが、目の細かい大きなネットで一網打尽。透明な稚魚がピチピチ光っていた。

 まだ骨も身もごく軟らかいので、カルシウム、タンパク質などすべての栄養素が十全に含まれた完全食といえる。特に魚の骨が苦手な子どもやお年寄りのカルシウム源としても優れている。また小なりとはいえ、イワシ(青い魚)なので、脳の活動や免疫に必要な必須脂肪酸も豊富に含まれている。

 しらすは塩茹でして供するのが一般的だが、そのあとどの程度乾燥するかによって、釜揚げ、しらす干し、ちりめん、と区別され、この順に水分が少なくなるゆえ、水分が少ないほど長持ちする。面白いのは、パックに入ったしらすをよく観察すると、その中にさまざまな海洋生物の幼生が含まれていること。タコ、エビ、カニ、ときには小さなタツノオトシゴまで。小さな命をいただいて私たちは自分の命を永らえる。ここでも食の基本は自然の恵みに対する感謝しかない。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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