ようこそ!不老不死レストランへ

里芋は皮付近の豊富な栄養とうま味を逃さないこと

里芋と黄ニラの土手煮(左)と“そのままグリル味噌風味”
里芋と黄ニラの土手煮(左)と“そのままグリル味噌風味”(C)日刊ゲンダイ
ネバネバ食品<2>里芋

 多くの野菜の栄養分やうま味は、皮の下に最も多く含まれています。ですから皮をよく洗ってそのまま使うか、むく場合でもできるだけ薄くむいて使います。むいた皮はスープや味噌汁やきんぴらなどにも利用できますから、野菜は残すところなく使い切るようにしたいものです。

 里芋もしかり。そのネバネバ成分は炭水化物とタンパク質が結合したガラクタンという成分によるものといわれ、肥満や高血圧予防、コレステロール低下作用、免疫力アップなどさまざまな効能があります。なので皮のすぐ下の豊富な栄養素やうま味をできるだけ逃さないようにするのです。皮をむく場合には下から上へ薄くむきます。

 今回は黄ニラとの土手煮と、そのままグリル味噌風味の2品。土手煮は里芋の皮を薄くむき、味付けには豆腐を発酵させた中国の調味料である腐乳を使います。

 腐乳は香りが強烈ですが、チーズにも似た独特の風味はそのまま酒の肴になりますし、崩して炒め物に使うこともできます。鍋やパスタの味付けなど、さまざまな料理に使えますので重宝します。

 そのままグリル味噌風味は皮付きのまま調理します。里芋の皮というとゴツゴツして硬いイメージですけど、火を通すことによって香ばしく、なにより、おいしくいただけます。

 里芋の保存は、皮を洗って乾かしたら、ペーパータオルで包んで袋に入れ、冷蔵庫の野菜室にしまいます。

■黄ニラと土手煮

《材料》
◎里芋 小6個の皮をむき、一口大の乱切りにして汚れはペーパータオルでふき取る(写真)
◎にんにく  小さじ1(みじん切り)
◎ごま油  大さじ1
◎干しエビ  大さじ2(粗みじん切り)
◎チキンスープ  2カップ
◎紹興酒  大さじ2(日本酒で代用可)
◎腐乳  大さじ2(味は変わるが味噌で代用可)
◎白こしょう  少々
◎黄ニラ  1束(長さ3センチ)

《作り方》
 土鍋、または準じた鍋に、にんにくとごま油を入れ、中火で香味の立つまで炒めたら、干しエビを加える。里芋を加えてさっと炒め、チキンスープと紹興酒を入れたら一度煮立てる。腐乳を加えて弱火で15分、焦がさないように時々混ぜながら里芋が軟らかくなるまで煮る。味をみて白こしょうで調味し、火を切り、黄ニラを加える。

■そのままグリル味噌風味  

 里芋3個の表面を洗ったら、皮をむかずに縦半分に切る。オリーブオイル大さじ3、麹味噌小さじ1、白こしょうをよく混ぜたものを里芋の切り口に塗り、250度に熱したオーブンで10分焼く。魚焼きグリルで焼いても良い。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

里芋は一口大の乱切りにして汚れはペーパータオルで
里芋は一口大の乱切りにして汚れはペーパータオルで(C)日刊ゲンダイ

 以前、台湾のチョウを観察するために本島南部の海上の小島に出かけたことがある(私は、子どもの頃からの虫オタク、それが高じて生物学者になった)。

 人里を離れて山道を上っていくと、斜面の密林の中に思いがけず狭い段々畑が作られていた。谷筋から水が流れ込んでいて、青々としたハート形の葉っぱが茂っていた。里芋だ。日本では主に畑で作られているが、奄美諸島以南ではこのように水を張って育てていることが多い。日照の多いところではその方が収穫量が上がるからだ。

 秋が旬。里芋を掘り出したことのある人はよく知っていると思うが、根は一抱えもあり、そこに小さな丸い芋がびっしりとついていて、おのずと自然の恵みの豊かさに感謝することになる。これはすべて里芋が光合成によって、大気中の二酸化炭素を炭水化物に変えてくれたもの。芋こそが重要な炭水化物源=主食として人間の文明を支えてきた。里芋は、じゃがいも、さつまいもに比べて、独特のぬめり、ネバネバ食感があり、これがまた煮物などにするとおいしい。

 ネバネバの正体はマンナン、ガラクタンなどの食物繊維。これも光合成の産物だが、人間にとってはノンカロリーの健康成分。整腸作用、消化促進、免疫力向上などの作用が知られている。俗に「芋の子を洗う」という表現は、里芋をたらいの水に入れ、板でかき回して皮をとる作業から来ている。里芋はシュウ酸を多く含むので、よく水にさらして、加熱しないとえぐみの原因となる。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

関連記事