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長芋は皮を薄くむいたら洗わず 豊富な栄養と風味を逃さない

長芋のグラタン(左)ときゅうりとの叩き和え
長芋のグラタン(左)ときゅうりとの叩き和え(C)日刊ゲンダイ
ネバネバ食品(4)長芋

 精のつく食材として知られる長芋は非常に栄養が豊富です。胃壁などの粘膜を保護、腸内環境を整えるネバネバ成分のムチンを筆頭に、消化酵素のアミラーゼ、抗酸化作用のあるビタミンC、高血圧予防のカリウムなどが含まれています。なおかつ100グラム当たり65キロカロリーしかありませんから、まさにスーパーフードです。

 豊富な栄養分と風味を逃さないポイントは2つあります。

 1つは皮をできるだけ薄くむくこと。野菜の栄養とうま味は皮付近に多いですから、ピーラーなどをうまく使って丁寧にむくことです。

 もう1つは皮をむいたら洗わないこと。粘りがあるためについ洗いたくなる気持ちはわかりますけど、洗ってしまうと逆に粘り気が増して扱いにくくなります。なにより洗ってしまえば豊富な栄養素や風味を逃してしまいます。

 長芋はその調理法によって、さまざまな食感が楽しめます。加熱したグラタンではホクホク、きゅうりとの叩き和えではシャリシャリ、そのまますりおろせばネバネバの食感になります。完全食として大和芋を扱った際にはすりおろしたものを調理した2品を紹介しましたので、今回は別の調理法で異なる食感を楽しめるメニューです。

■グラタン

《材料》 
◎長芋 300グラムの皮をむいて一口大の乱切り
◎オリーブオイル  大さじ1
◎たまねぎ 4分の1個を薄切り
◎生ベーコン 100グラムを5ミリ厚さの一口大に
◎サワークリーム  1カップ
◎卵黄  1個
◎ナチュラルチーズ  4分の1カップ
◎白こしょう  少々
◎パルメザンチーズ  大さじ1

《作り方》 
 フライパンにオリーブオイルを引いてたまねぎを中火で炒める。生ベーコンを加えてさっと炒めたら、長芋を入れ、ひとまぜして火を止める。ボウルでサワークリーム、卵黄、ナチュラルチーズ、白こしょうを合わせる。

 オーブンウエア(耐熱皿)に炒めた長芋、たまねぎ、ベーコンを敷いたら、ボウルの中身をかけ、パルメザンチーズをふる。

 220度に熱したオーブンで10分間焼く(オーブントースターで代用可能)。

■叩き和え

 長芋200グラムの皮をむいて縦半分に切ったものをまな板にのせ、ペーパータオルをかぶせたら上からすりこぎで叩き(写真)、一口大に切る。

 きゅうり1本を叩いて乱切りにしたものを加えたら、しょうがのみじん切り小さじ1、にんにくのみじん切り小さじ2分の1、みりん小さじ1、醤油、米酢各大さじ1を合わせて上からかける。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

ペーパータオルをかぶせて上からすりこぎで叩く
ペーパータオルをかぶせて上からすりこぎで叩く(C)日刊ゲンダイ
シメには米より少々の芋がよい根拠

 日本人の主食は米だが、ヨーロッパやロシアなどでは芋が主食である。米や小麦などの穀物と、ジャガイモ、サツマイモ、あるいは今日のテーマである長芋などの芋類とでは主食として何が違うのだろうか。

 カロリー源としてのデンプンをたくさん含むこと、タンパク質も十分含んでいることはほぼ同等である。違いは、芋類の方が大量の水を含んでいるということ。長芋のネバネバ成分も食物繊維に保持された水分が多いゆえのもの。なので、同じカロリーを摂取しようとすると、芋の方がたくさん食べないとならないことになる。

 これは現代人にとってはかえって都合がよい。低炭水化物ダイエット法を励行して、米を食べないようにしている人が時々いるが、シメにごはんを食べないのは物足りないもの。また、カロリー不足を補うため、結局その分、他のもの(肉や魚)を多く食べてしまうので、タンパク質や脂質が過剰になりがち。そんなことなら芋を少々食べた方がよい。炭水化物を食べた満足感もあり、またカサが大きい(水分が多い)ので食べ過ぎることもない。

 長芋はそのまま短冊にして食べても、とろろにすりおろしても、あるいはお好み焼きに入れても(水分が多いのでふんわり焼き上がるので)おいしい。日本の食文化の中で育まれた、変化に富む優れた栄養食材である。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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