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かんずりは味のしっかりしたものに最適 食欲増進と消化促進作用が

「かんずり」を使った牡蠣のいり煮(手前)と、かんずりバターの磯部巻き
「かんずり」を使った牡蠣のいり煮(手前)と、かんずりバターの磯部巻き(C)日刊ゲンダイ
和の香辛料(3)かんずり

 かんずりは塩漬けにした唐辛子に柚子、麹、塩などをまぜ、熟成させたものです。

 越後の戦国武将・上杉謙信が京都から持ち帰った唐辛子が土地に根付いて生まれた発酵食品といわれています。

 主な材料の唐辛子は、長い年月をかけて自然交配されたもの。大きく、肉厚で、辛さの中にもうま味があります。そこに他の食材が加わり、なおかつ発酵させることによって独特の複雑な風味が醸し出され、辛いだけでなく、酸味、うま味を伴った香り豊かな調味料になるのです。

 かんずりは味のしっかりしたもの、油で揚げたり炒めたりしたもの、醤油や味噌との相性が良く、唐辛子には食欲増進、消化促進作用があります。

 今回は牡蠣のいり煮と磯辺焼きの2品です。

 かんずりの強い辛味は、牡蠣の濃厚なうま味を引き立てますし、バターとの相性も抜群です。焼いた餅にかんずりと発酵バターをのせた磯辺巻きは手軽に作れるだけに、おやつや小腹がすいたときの軽食、お酒のおつまみとしても最適です。

 和の香辛料、香味料は日本独自の風土や食文化から生み出されたものです。わずかな量を使うことで料理がおいしくなるばかりか、食欲をかきたて、使い方次第で塩分も控えられます。先人たちの知恵に感謝すると同時に、本物の香辛料や香味料は家庭料理の中で受け継いでいきたいものです。

■牡蠣のいり煮

《材料》
◎加熱用牡蠣 5個
◎粗塩 小さじ1
◎酒 大さじ2
◎ごま油 大さじ1
◎にんにく 小さじ1(みじん切り)
◎かんずり 小さじ1
◎ネギ 4分の1本(小口切り)

《作り方》
(1)牡蠣をボウルに入れ、粗塩を絡めるようにして汚れを粗塩に移したら、冷水を注ぎ、牡蠣をふり洗いする。
(2)牡蠣の水気を切り、酒を合わせ10分置く。
(3)フライパンにごま油とにんにくを合わせて中火にかけ、炒める。香味が立ったら牡蠣を加えて両面を焼き、かんずり、牡蠣のつけ汁を加え、さっと火を通す。器に盛り、ネギをちらす。

■かんずりバターの磯辺巻き

 お餅を焼いて、醤油にくぐらせ、海苔の上にのせ、発酵バターとかんずりをのせていただく。

▽松田美智子(まつだ・みちこ)女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

「かんずり」は新潟県妙高特産の辛味調味料、長いものでは6年熟成したものも
「かんずり」は新潟県妙高特産の辛味調味料、長いものでは6年熟成したものも(C)日刊ゲンダイ
発酵によってうま味や甘味が引き出され、味覚の多角形が円に近づく

 かんずりとは新潟県妙高特産の辛味調味料。かなりの手間暇をかけて作られる。

 まず、地元で収穫された肉厚の唐辛子を秋に塩漬けする。大寒の頃、雪の上にまいてさらし、アクと塩分を抜く。井戸水で洗い、黄柚子、米麹、塩とまぜ合わせて3年以上の熟成期間に入る。途中、手返し(かきまぜ)や樽の位置変えなどをして発酵を促進する。仕込みの終わったかんずりはその年の冬、野外に出して寒ざらしを行う。こうすると一層味が引き締まる。これを瓶詰めして出荷する。長いものでは6年熟成したものもあるという。松田さんの本によれば「ほのかな酸味と旨味を含んだまろやかな辛味」。油ものとの相性が良いのが特徴だ。

 この季節にぴったり。なんだか聞くだけで、お酒が欲しくなる。俗に、熟成によって塩や辛味のカドがとれる、という言い方があるが、まさにかんずりがそうだ。最初は塩分や辛味がとんがって感じられるが、発酵のプロセスを経るにつれ、タンパク質やデンプンが分解され、アミノ酸のうま味や糖質の甘味が顕在化してくる。そうすると味覚の多角形が円に近づき、バランスの良さ、コク、奥行きが出てくるというわけ。地域の食材と気候風土を巧みに利用した日本食文化の華である。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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