進化する糖尿病治療法

血糖値を下げるだけでは不十分 脂質異常や高血圧のチェックも

肥満によるダメージは1つだけじゃない
肥満によるダメージは1つだけじゃない(C)ロイター

 糖尿病というと、その名前から「尿に糖が出る病気」と考えている方がかなりいます。しかし糖尿病は、糖(ブドウ糖)が血液中に停滞する病気です。糖は「酸化」などの化学反応で血管の内側の壁を傷つける性質があるため、血液中に糖が多い状態が続くと、血管がダメージを受け、動脈硬化を進行させます。

 つまり、糖尿病は「血管がダメージを受ける病気=動脈硬化を進行させる病気」と捉えるべき。そして、「血管がダメージを受ける病気」は糖尿病に限りません。

 遺伝的要因が大きい1型糖尿病に対し、2型糖尿病は生活習慣が大きく関係しています。主なリスク要因として肥満が挙げられますが、肥満は脂質異常症や高血圧の主なリスク要因でもあります。

 肥満になると、脂肪を蓄える白色脂肪細胞から分泌される物質「TNF―α」と「レジスチン」の量が増え、血液中のブドウ糖が白色脂肪細胞へと取り込まれにくくなり、高血糖になります。前述の通り、それが血管にダメージを与えます。

 また、肥満になると、遊離脂肪酸という物質が血液中に増えます。その一部が肝臓で中性脂肪やコレステロールに変わり、血液中に戻され、血液中の脂質が多くなります。これが脂質異常症で、糖尿病と同様に、動脈硬化を進行させ、血管にダメージを与えます。

 さらに、肥満は「アンジオテンシノーゲン」という物質も増加させます。それによって血管が収縮して細くなり、高血圧に至ります。高血圧は血管の壁に負担をかけるので、やはり血管にダメージとなります。

 糖尿病の治療目的の一つが、動脈硬化の進行を抑え、血管へのダメージを極力小さくすることです。そして、血管へのダメージを抑えることを考えるなら、脂質異常症や高血圧の治療も同時に行わなければなりません。 ところが、糖尿病治療では、血糖値の低下には力を入れていても、脂質異常症や高血圧の治療が十分に行われていないケースが散見されます。特に、脂質異常症は見過ごされやすい。脂質異常症はLDLコレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールの数値を見て診断しますが、中性脂肪は食事の影響を受けやすい。健康診断や人間ドックを受けていても、しばらく前から食事制限をしていたら、検査結果では基準値内となってしまうことが、よくあるからです。

 糖尿病の人、中でも肥満があって糖尿病を発症した人は、脂質異常症、高血圧を疑ってかかるべきです。

 また、女性は、更年期(45~55歳前後)以降は女性ホルモンの分泌が減少し、その影響でLDLコレステロールが上昇しやすくなるので、肥満でなくても、LDLコレステロールの数値の推移に注意しなくてはなりません。

 せっかく糖尿病の薬を服用して血糖値をコントロールできていても、脂質異常症や高血圧の治療が行われていなければ、「動脈硬化の進行を抑え、血管へのダメージを極力小さくする」という目的を果たせていません。糖尿病治療と、脂質異常症治療、高血圧治療は切り離せないのです。

 高血圧は、初期であれば減塩で血圧を下げられるかもしれません。一方、脂質異常症は薬でないと数値を下げられない場合がほとんどです。LDLコレステロールは体質との関連が大きく、運動や食生活改善ではなかなか下がらないからです。

 糖尿病の人が新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすい。今できる対策の一つが、適切な糖尿病治療であることを考えると、血管の炎症・動脈硬化を抑えるという観点からも、脂質異常症・高血圧治療も適切に行われているか、確認する必要があります。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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