進化する糖尿病治療法

7時間睡眠になったら糖質や甘いものが欲しくなくなった

睡眠は量とともに質も大事(写真はイメージ)
睡眠は量とともに質も大事(写真はイメージ)

 千葉県在住の40代男性は、都内の職場まで片道1時間半かけて通勤していました。3月末以降在宅勤務が主になり、大きく変わったのは睡眠時間です。平日は4~5時間しか眠れなかったのが、今では最低でも7時間の睡眠時間を確保できるようになり、慢性的な睡眠不足から解消されました。

「日中眠気を感じないので、仕事の効率がよくなりました。また、不思議と、糖質を前ほどは欲しなくなりました」(40代男性)

 1日に3~4本飲んでいた甘い缶コーヒーを欲しくなくなり、何か飲むなら水やお茶。活動量が減っているので大幅に体重減とはまだなっていないものの、ゆるゆると体重は落ちていて、ベルトの穴がこの5カ月で2つ小さくなりました。

 この40代男性が痩せたのは、睡眠不足が解消されたことと大いに関係があると考えられます。というのも、睡眠時間が食事の内容や生活習慣病に関係していることは、複数の研究で証明されているからです。

 英国のキングス・カレッジ・ロンドンが1日の睡眠時間が7時間未満の18~64歳の男女21人を対象に、睡眠改善のためのコンサルティングを行いました。それによって平均して就寝時間が1時間早まり、睡眠時間が30分増え、86%で睡眠時間が改善。睡眠時間が改善した人では食行動の変化もみられ、1日の糖質の摂取量が平均9・6グラム減少しました。

 キングス・カレッジ・ロンドンが行った172人を対象にした別の研究では、睡眠不足の人は1日の摂取カロリーが平均385キロカロリー多くなるという結果が出ました。日清カップヌードルが351キロカロリーになるので、カップ麺1個分に相当する量になります。

 韓国のソウル大学医学部は、13万人以上を対象に調査。調査参加者は睡眠時間が4時間以下から10時間以上と幅広く、このうち糖尿病やメタボリックシンドロームのリスクが最も低かったのが睡眠時間7~8時間の人で、睡眠時間が7時間未満の人や、10時間を超える人はリスクが上昇するとの結果が出ました。

 慢性的な睡眠不足は、空腹時血糖値の上昇、基礎インスリン分泌能力の低下、体内のホルモン分泌、自律神経機能の異常などを招きます。わずか2日睡眠不足が続いただけで、食欲抑制ホルモンの分泌が減少し、一方で食欲促進ホルモンの分泌が増す、といった報告もあるのです。睡眠時間の十分な確保は、日中の眠気をなくすだけでなく、健康を維持することにもつながるのです。

 睡眠では、量とともに質も大切です。「しっかり寝ているのに、日中眠い」「家族や同居者からいびきを指摘される」「起床時、頭痛や口の乾きなどがある」「すっきり起きられない。起きた時、体が重い」といったことがみられれば、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われます。

 SASには、空気の通り道である上気道が狭くなり、睡眠時に呼吸が止まる閉塞性睡眠時無呼吸タイプと、呼吸中枢の異常がある中枢性睡眠時無呼吸タイプがあります。SASの大半が前者で、肥満による首や喉回りの脂肪沈着、扁桃肥大、頭蓋骨の骨格が小さく気道が狭くなりやすいなど、さまざまな原因があります。SASは治療を受けなければ良くならず、放置すると血圧が上昇し、やがては心筋梗塞や脳卒中を招きます。少なくともいびきがあるなら、SASの検査をぜひ受けてみるべきです。

 糖尿病をはじめ生活習慣病対策となると、つい食事や運動にばかり目が行ってしまいがち。しかし、睡眠も重要であることを、しっかり理解していただきたいですね。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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