進化する糖尿病治療法

座ったままの時間を減らすだけで血糖値と中性脂肪が低下

座りっぱなしは良くない
座りっぱなしは良くない

 東京都のシェアサイクルを利用して、2年前から自転車通勤をしているAさん(52歳)。シェアサイクルとは、スマホを使って複数のサイクルポート(駐輪場)で自転車を好きな時間借りられ、どのサイクルポートで返却してもOKなサービスです。Aさんは朝の満員電車が嫌で、自転車通勤に切り替えました。乗っているのは片道30分ほどの距離ですが、ほかの生活は何も変えていないにもかかわらず、体重が約10キロ落ち、小太りを脱却できたそうです。健康診断でも、やや高めだった血圧、血糖値、中性脂肪が、すべて基準値内に下がりました。

 ニューノーマル時代において、マイカー通勤や電車通勤をしている人と、自転車通勤をしている人とでは、今後、糖尿病や高血圧をはじめとする生活習慣病の発症に差が出てくるのではないかと考えています。

 体を動かすことが生活習慣病のリスクを下げることは、さまざまな研究で証明されています。英国のレスター大学の研究では座ったままでいる時間が長い人は、血糖値や腹囲、中性脂肪、コレステロールなど糖尿病と関連の深い値が悪化しやすいとの結果が出ています。

 レスター大学の最新の研究では、座ったままの時間を減らすことに加え、立ち上がって軽い運動をすれば、より食後のインスリン分泌や血糖上昇が抑制されることが明らかになりました。4件のランダム化クロスオーバー試験のデータから、耐糖能異常の人を含む129人のデータを解析。

 すると、座ったままの状態を6・5時間続けた場合と、30分ごとに5分間立ち上がりウオーキングなどの軽い運動をした場合とでは、後者の方がインスリン値は平均13・500Um/リットル低下し、食後血糖値も平均5・4㎎/デシリットル低下しました。

 生活習慣が関係する2型糖尿病と異なり、1型糖尿病に関しては、運動のエビデンスはこれまでそれほど多くありませんでした。

 しかし、1型糖尿病に関しても、座る時間が長いほど、血糖コントロールが悪くなることが、国内の研究で明らかになっています。

 発表したのは、藍野大学医療保健学部理学療法学科の本田寛人先生たちです。

 本田先生たちが成人の1型糖尿病患者42人を対象に、自己申告における座位時間、運動の行動変容モデルステージ、HbA1c、BMIの関連を検討しました。

 それにより分かったのは、「HbA1cは座位時間が長いほど高く、高齢であるほど高い」「BMIは罹病期間が長いほど高く、運動の行動変容モデルステージとは逆相関する」ということ。

 また、座位時間をもとに四分位に分けてHbA1cを比較したところ、1日当たり座位時間4・6時間未満の人は、1日当たり8時間以上の人に比べてHbA1cが15%有意に低いとの結果でした。

 本田先生らは、今回の研究は対象患者数が少ないものの、「1日の座位時間が4・6未満であることは、1型糖尿病患者の良好な血糖管理に関連している可能性がある」と結論をまとめています。

 今後、動く時間をどれだけ増やすかということは、より大きな課題となってくると考えています。

 というのも、コロナの影響で、そもそもの動く時間が減っているから。在宅勤務の頻度が増えていることもそうですし、「買い物に行く回数を減らした」「映画や美術館などに行く機会が減った」「週末は家で過ごすようにしている」という話は、3月以降、本当によく聞きます。

 冒頭のAさんのように電車通勤を自転車通勤に変えるのも良し。それはさすがにハードルが高いという人は、仕事中30分ごとに立って歩いたりストレッチをしたりするのも良し。ほんの少しの変化が大きな結果を生みますよ。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

関連記事