最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

在宅医療とはどのような医療でしょうか?病院との違いは?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療とは何かと問われれば、それは「慣れ親しんだ我が家で治療を受けたい。最期を迎えたい」という患者さんの思いに応えるための医療だと言えます。それは病状も生活環境も違う、多様な患者さんの要望や気持ちにできるだけ寄り添う医療でもあります。

 よく、がんや特殊な患者さんだけを対象としている特別な医療だと思われがちですが、そうではなく、どんな病気でも、また若くても年老いていても、だれでもこの在宅医療を受けることができます。

 当然ながら患者さんによって、病状も生活環境もさまざまで、要望もそれぞれ異なります。私たち医師や看護師、ケアマネジャーなど在宅医療に関わるスタッフは、そんな患者さんの病状や、患者さんだけでなく、そのご家族の要望にも応じて計画的に、定期的または不定期にご自宅を訪問し、診察や治療を行っています。

 実際、いま我々の在宅医療を受けていただいている患者さんの中には、それまでに通常の病院で入退院を繰り返し、入院にウンザリした末にたどり着いた方も少なくありません。

■入院は「治療道場」みたいなもの

 よく「在宅医療と病院との違いは何ですか?」といった質問を受けることがありますが、僕の解釈では、病院はあくまでも治療するためだけに行くところで、入院というのは患者さんにとって「治療道場」みたいなものだと思うのです。味もそっけもなくて、朝6時に起きて夜9時に寝る。食事もそれなりで、朝8時、昼12時、夕方6時ときちんと決まっている。例えばお年寄りの患者さんが夜に「トイレに行きたい」からとか「眠れない」などといって出歩いていたら、危ないし睡眠が十分に取れていないといった判断で、睡眠導入剤を出したり、場合によっては身体抑制をするといった具合に、どうしても管理する視線が先に立ってしまいます。

 一方、在宅医療では、生活の延長線上に治療があるという発想ですから、ネットフリックスなどを見て夜更かししようが、お酒を飲もうが、患者さんの自由です(もちろん、病気治療のためにNGなことがあれば、それはやめてもらいますが)。

 例えば患者さんでよくあるケースが「食後に飲む薬」を余らせることです。最近は1日2食の人も珍しくありませんよね。そういう患者さんに朝昼晩と食後3回飲む薬を出すと、どうしても1回分が余ってしまいます。そんな時は、最初から朝と夜の薬で、症状をコントロールできる処方を考えるわけです。

 つまりは、患者さんの生活や個人差に配慮したテーラーメードな医療が在宅医療なのです。そうしないと、患者さんに喜んで受け入れてもらえないわけで、そうなると在宅医療をする意味がなくなってしまいます。

 在宅医療に関わる上で僕は「人さま(患者さん)の生活を管理する」などと考えてはいけないと、常々戒めています。一緒にチームを組むスタッフともその認識を共にし、日々治療に当たっています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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