がんと向き合い生きていく

占い師に病院の方角が悪いと言われ…胃がん患者が転院を希望

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 出版社勤務のRさん(42歳・女性、独身)は、雑誌の編集や原稿の整理などの仕事を、テレワークでこなしていました。今年の春ごろから食欲がなく、出勤しない生活になったためかと思っていましたが、体重が5キロ減ったことで近くの胃腸科を受診したところ、某大学付属病院を紹介されました。

 そこでの診断は、手術ができないほど進んだ「胃がん」でした。Rさんはその後、某大学付属病院に通院して外来で抗がん剤治療を受けました。それから3カ月ほど経ったある日、Rさんは診療情報提供書を持参して、セカンドオピニオンを受けるためにC病院のG医師を訪ねました。

 G医師が「診療情報提供書ではしっかり治療が行われているようですが、お聞きになりたいことはどのようなことですか?」と聞くと、Rさんはこう答えました。

「担当医とどうしても合わず、病院を変わりたいのです。こちらに通院してもよろしいでしょうか? ここの病院を選んだのは、良い病院だと友達から勧められましたし、占い師がこの病院の方角が良いと言ってくれたからです」

 G医師は、なんと! 占い師か……と思いながら、詳しく話を聞いてみました。

 ◇ ◇ ◇ 

 某大学病院ではもう6回も診察を受けて、治療もしていただいているのですが、診察室に入ると担当医との間に何か嫌な雰囲気を感じてしまうのです。担当医の白衣からいつもたばこの臭いがするのも嫌です。担当医の太い眉毛とギョロッとした目を見ると、私は何も言えなくなるのです。

 それで聞きたいことを紙に書いて持って行くようにしているのですが、いざ担当医の前になると、その紙を手にしたまま「はい、はい」とだけしか言えなくなるのです。 自分のわがままだ、しっかり治療していただいている……そう思っていつも反省してきました。でも、「私のがんは治らないのは分かっているし、この医者に命をあずけるのか」と思うと、気がめいってしまいます。

 たまたま近くの商店街にいる女性の占い師さんに相談したら、「あなた、いまかかっている病院の方角が良くありません」と言われたのです。

 姉にも電話で相談したところ、姉からは「診療情報提供書を書いてもらって、セカンドオピニオンでC病院に行って相談してみたら?」と勧められました。

 C病院に来られて良かったです。ぜひ、ここで治療をお願いします。医療は患者と医師の共同作業だと聞いたことがあります。私は治らないがんで、これが人生最後の共同作業だとすると、パートナーとなる医師は、気の合う納得のいく医師を選びたいのです。私の祖父は、最期は大好きな医師にみとってもらったのです。

 ◇ ◇ ◇ 

 G医師は、「セカンドオピニオンというのは、転院することではありません。他の病院の意見を聞いて、元の病院に戻って診ていただくものです」と答えました。しかし、Rさんは必死になって「転院をお願いします」と繰り返します。

 この時は、G医師が返事を書き、某大学病院に戻ってRさんと担当医とで話し合ってもらうことになりました。その後、何回かやりとりがありましたが、結局、Rさんの強い希望でC病院に転院し、G医師が治療を引き受けることになりました。

 転院してからもC病院では同じ治療が続けられました。それでもRさんは、お姉さんにこんな話を何度もされていたそうです。

「転院して良かった。今度のG医師とはうまくいっている。占いを信じるわけではないけれど、あの時、占い師は『病院の方角が悪い』とよく言ってくれたと思う。あれで踏ん切りがついた。担当医に診療情報提供書を書いて欲しいと言えた。お姉さんありがとう」

 数カ月後、Rさんは病状が悪化してC病院で亡くなりました。おじいさんと同じように、納得のいく最期を迎えられたのではないかと思うのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事