上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

新型コロナによる「受診控え」で命の危機を招けば本末転倒

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの感染がさらに拡大し、医療機関の受診を控える人が増えています。日本胸部外科学会の調査によると、医療機関の3分の2が、今年2月から8月までの間、手術件数が前年同時期に比べて「減った」と回答しています。とりわけ5月の手術件数は、平均40%も減っていました。

 感染拡大を阻止するため、医療機関側が時間的猶予がある患者さんの手術を延期した影響もありますが、感染を恐れて自主的に外出を制限している患者さんの「受診控え」も大きな要因のひとつといえるでしょう。

 患者さんのそんな心情はよくわかります。しかし、命の危険がある病気は新型コロナだけではありません。治療の遅れが深刻な事態を招くケースはたくさんあります。実際、しばらくガマンしていた腹痛が耐えられないほど酷くなって近所のクリニックを受診したところ、心筋梗塞がわかってすぐにカテーテル治療が行われ、どうにか一命をとりとめた患者さんもいます。

 感染を恐れるあまり、ほかの病気で命を失ってしまっては本末転倒です。「おかしいな」と感じたら、まずは、かかりつけ医か近所のクリニックで診てもらうことをおすすめします。

「おかしいな」という状況は、普段と違った生活習慣によって起こりやすくなります。通勤や外出を控えて体を動かす機会が減ったり、食事や睡眠が偏ってしまっている人は、まさに当てはまっているので注意が必要です。

 医療機関を受診したほうがいい“サイン”は痛みだけではありません。いわゆる全般的な体調不良、睡眠不足、便秘、イライラをはじめ、動悸、息切れ、立ちくらみ、めまい、足のむくみなど、普段とは違った症状があれば、受診対象だと考えたほうがいいでしょう。とりわけ、普段と同じような行動ができなくなるような状態があれば、すでに異常事態です。これは、心臓病を抱えていない人も同じです。こうした体調不良は、心臓以外に原因があって表れるケースがたくさんあります。ですから、「おかしいな」と感じたら受診することが大切なのです。

■軽い段階で手続きが簡単な医療機関を受診する

 ただし、「おかしいな」と感じるくらいの症状が軽い段階では、まず一般のかかりつけ医や総合内科を標榜するクリニックで診てもらうのがスタートです。そこで体調不良の原因を点検してもらい、個別の臓器に問題がある場合は、それに該当する専門の医療機関を受診するのが正しい順序です。いきなり専門の医療機関や大学病院などの基幹病院を受診することは避けてください。

 専門病院や基幹病院の中には、新型コロナの患者さんに対応している施設もたくさんありますし、待ち時間が長かったり、自分が希望している医療を受けられない可能性もあります。また大学病院の場合、紹介状がない患者さんは「選定療養費」が加算され、5000円以上の費用が余分にかかります。さらに2000円が増額される見込みです。

 いまは、医療機関を受診する順序がある程度決められていて、大きな病院になればなるほど受診のための手続きが必要になります。そうした手続きは、症状が重くなればなるほど“障害”になってしまう可能性もあります。ですから、まずは症状が軽い「おかしいな」という段階で、クリニックや中小病院といった受診の手続きが簡単な医療機関から受診していくことが大切なのです。

 もちろん、受診する際には新型コロナウイルスに対する感染予防策が必要です。マスクの着用、ある程度のソーシャルディスタンス、目を防護するアイガードの3つを心掛ければ、濃厚接触を防ぐことができます。さらに、受診前後は必ず手洗いを行い、ウイルスの付着が疑われる機器などをアルコール消毒すれば、感染リスクをかなりの割合で防ぐことができます。

「おかしいな」という体の変調を感じたら、ガマンすることなく、感染対策を心掛けたうえで医療機関を受診してください。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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