がんと向き合い生きていく

温熱療法は治療中の適切な「温度管理」がきわめて重要

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「副作用がない温熱療法はどうですか?」

 進行した肺がんの患者さんが、ある診療所で勧められました。

 がん細胞は、42度以上で一定時間以上温めると死滅します。体の表面であればそれほど難しくなく温めることができ、温度測定も可能です。しかし、肺の中や体の奥を一定時間以上、42度以上にどのようにして加温するか、温度測定をするかが問題です。

 がんの周りの正常組織は、長く43度以上になるとやけどを起こしてしまいます。また、たとえ42度になったとしても、体は血流で体温を下げようとします。正常組織とがん組織の血管では、温度に対する反応は違うのですが、いずれにしても温熱療法は治療中の温度管理がとても大切です。

 以前、私は放射線治療科の医師とともに温熱療法の臨床研究チームに加わったことがあります。ネズミやミニ豚などでの実験も行いました。臨床的には、温熱療法単独ではなかなか期待される効果がなく、放射線治療か抗がん剤治療との併用で効果が得られると考えています。

 機械を用いてがんの部分を加温する場合、多くはマイクロ波か、ラジオ波(高周波)が使われます。短波長であるマイクロ波は300メガヘルツから300ギガヘルツの波(波長1ミリメートル~1メートル)で、体の深部までは届かないことから表面にあるがんに適しています。

 がんが深部にある場合は、ラジオ波が使われます。「電波」という場合、一般的にはラジオ波のことを意味し、周波数30~300メガヘルツ(波長100ミリメートル~1メートル)の電磁波のことを指します。

 マイクロ波でもラジオ波でも、①がんの部分が何度になっているか②その温度をどのくらいの時間保てるか③周囲の正常組織の温度は何度かを確認する必要があります。ですから温熱療法では、本当にその温度になっているのか、がんを殺す治療になっているのかについて注意しなければなりません。もし、温度管理をせず、時間も短く、副作用もないとなれば問題です。

■抗がん剤や放射線との併用で効果が期待できる

 最近、某県立がんセンターに温熱療法(ハイパーサーミア)の機械が設置されたとの報道がありました。電磁波で体外からがんを加温する治療装置です。体の表面から2極の電極盤で挟み、その間にラジオ波を通すことによりジュール熱で加温します。体に接する表面がやけどを起こさないよう電極盤には冷却水を流し、体の中心部分の温度をより高める工夫がされています。

 ラジオ波は波長が長いためエネルギーの集中性は低いのですが、体の奥深くへの加温には適しています。導入されたこの機械は、主に胆道系のがんに対して使われるといいます。1日で数人の治療が可能とされ、この場合でもハイパーサーミア単独の治療は行わず、抗がん剤治療または放射線治療と併用することになっているようです。

 こうしたいわゆる温熱療法とは少し異なりますが、「経皮的ラジオ波焼灼療法」と呼ばれるがん治療があります。肝臓がんや肝臓に転移したがんに対し、ラジオ波が用いられます。これは、超音波(エコー)でがんのある場所を確認し、細い針を刺し、ラジオ波を流して焼却する方法です。多くはがんの大きさが3センチ以内の場合に行われます。

 がんは熱に弱いといっても、単に高温のお風呂に入るのでは効果はありません。かつて、全身麻酔下で体外循環による全身温熱療法が検討されたこともありますが、心臓をはじめとした他臓器への影響などのリスクが高く、現在はあまり行われてはいません。

 また温熱療法は、昔から民間療法として行われてきました。藻草のお灸、○○式温熱療法、××温泉など、がんの治療に効果があるとうたったものがいくつもありましたが、眉唾的なものが多かったのも事実です。きちんとした温度管理が行われずに「副作用がない」とうたっている場合は要注意です。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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