最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

看取るまで家族はずっと患者の側についていなくてはダメ?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を始めた家族が抱く不安や疑問で多いのが、医師にわざわざ来てもらわなくてもいいような、少し調子が悪くなっただけのときはどうすればいいのか? というものです。

「24時間365日対応」と聞くと、連絡するとすぐに医師が駆けつけてくれる印象があるようで、連絡をせずに我慢した結果、病状を悪化させてしまう方がいます。

 実際は「前回処方した痛み止めはまだありますか?」「30分様子を見てみましょう」といった電話口でのアドバイスで済むことも少なくありません。つまり重症化を防ぐためにも、遠慮なく相談することが大切です。もし不安や心配事があるなら、どんどん電話で聞いて解消しましょう。

 次に多いのが、在宅医療をいったん始めると、その家族は看取るまでずっと患者のそばについていないといけないのか? という質問です。

 人生の終わりが近づくにつれ、患者さんが自分でできることはだんだん減ってきます。そんな患者さんを支えなければと、可能な限り患者さんのそばにいて何かしなければと奮闘する家族もいます。しかしそれが、家族の精神的なプレッシャーになって、いわゆる“看取り疲れ”とでもいいましょうか、心身が疲弊してしまうことは結構あります。

 あるケースを紹介しましょう。元警備会社勤務の、直腸がんを患う57歳の男性の患者さんです。

 病院から余命数カ月と宣告されたのを機に、在宅療養に切り替えました。両親やお兄さんはすでに死別。いとこはいるけど、頼らずに一人で人生の締めくくりを迎えようとされていました。

 不思議な魅力がある方で、30年来通っていたスナックへ在宅医療スタッフと一緒に行ってカラオケを楽しんだり、春には桜の名所に在宅医療スタッフが車イスを押してお花見に行ったり。そんな時は、久しぶりの外出だからと洋服を通販で購入し、「おニューなんだ」とうれしそうに見せてくれたりもしました。

 最後の1~2カ月になると訪問診療は2日に1回、訪問看護は毎日介入。旅立ちの時が近づいてくると、1日2回入ることもありました。亡くなる1週間前には、こちらの勧めもありいとこに連絡し再会。退院してからの1年2カ月、思い残すことなく自宅で過ごされました。

 このケースで伝えたいのは、「家族が同居していなくても、その人らしい最期を自宅で迎えられる」ということ。そのような体制にもっていくのが私たち在宅医療のスタッフなのです。

 だから、自宅で看取りをする場合も、家族は何もしなくてよく、そばにいてあげるだけでいいのです。

 一方、在宅医療ならではのメリットとしては、患者さんの手をさすったり呼吸を見たりと、家族が患者さんへ意識を向けていられることです。「濃密な時間を過ごすことができた」と、看取り後に話す家族も少なくありません。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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