最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

上限を超えればそれ以上治療費がかからない「在がん制度」

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を取り巻く環境は常に目まぐるしく変わっています。診療報酬は2年に1回改定が行われますが、これはその時の経済情勢、治療方法の進化やケア技術の向上、さらには新薬の登場などを適切に反映させるためのものです。

 例えば2014年の改定時には、老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者住宅などへの訪問診療時の診療報酬が、一軒家の4分の1に改められました。

 というのも、在宅医療は本来、自宅での療養をサポートするもの。しかし、診療報酬をより効率良く得ようと老人ホームなどでのサービスが過度になる流れが出てきたためで、それを食い止めるのが目的だったのでしょう。いずれにしても、在宅医療を巡る環境の変化は、一番困っている患者さんや、そのご家族にとって使い勝手の良いものへとブラッシュアップされていかなければならないと思っています。

 そんな中、在宅医療を受けようとする特に末期がんの患者さん、そのご家族を支える仕組みで「在宅がん医療総合診療料」(在がん)というものがあります。

 これは、食べ放題や携帯電話のかけ放題みたいに、訪問診療と訪問看護のサービスが受け放題となる診療料のプランで、その都度追加される出来高制料金とは異なり、1週間を単位としたパック料金になっています。

 患者さんの自己負担はそれぞれの所得レベルに応じて違いますが、入院するよりも上限額が低く決められているのが特徴といえるでしょう。

 以前こんな患者さんがいらっしゃいました。

 その方は60代後半の胆管がん末期の男性患者さんで、3度の結婚を経験。1回目の結婚で長女と長男、再婚で次男、次女、三女と、お子さんは全員で5人。さらにお孫さんは7人いました。

 入院先から余命1カ月と告知を受け、在宅医療に切り替えることになった当初、ご本人は「自由に家で過ごしたいが、在宅医療費が高額になるのでは」とためらっておられました。

 ですが医師が丁寧に説明し、医師や訪問看護が何回入っても、その上限以上は治療費がかからない「在がん制度」があることを説明し、納得の上でようやく在宅医療スタートとなりました。

 入院中は自分の好き嫌いをはっきりと口にする性格から、病棟では看護師さんとよくもめていたそうですが、やはり自宅での居心地がよかったのか、私たちスタッフには常に穏やかに接してくれ、時に笑顔も見られていました。そして退院から1カ月あまり、患者さんはお子さんやお孫さんに見守られながら眠るように亡くなられました。

 自宅で過ごした時間は1カ月だったかもしれません。ですが娘や息子とも会えて話すことができ、思い残すことなく旅立っていけた。在宅医療に切り替えて良かったと奥さまも言っていました。

 さて、この時の医療費ですが、当初お話ししていた「在がん」より、実際に我々スタッフが介入した回数で計算するほうが安かったため、結局「在がん」は使うことはありませんでした。

 このように患者さんの負担がより少ない料金制度を常に選ぶ。そんな柔軟な対応ができるのもまた在宅医療なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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