笑顔には、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールを軽減させる効果があります。そのため、このコラムでは以前に、「口角を上げ、笑っているような表情をつくるだけ(フェイクスマイル)でもストレスが軽減される」とお伝えしました。
自己啓発本やストレス解消本などを見ていると「笑顔は素晴らしい」と喧伝されがちですが、気を付けてほしい点があります。
それは、悲しいときに無理して笑うのは逆効果ということ。何かしらの感情を抱いていないときはフェイクスマイルは有効なのですが、落ち込んでいるときや悲しいときは無理して笑う必要などないのです。
香港科技大学のムコパディヤイらの研究(2014年)では、「自分の気持ちに反して笑顔をつくると、気分がより落ち込む」と判明しています。彼らは、「人はどれくらいの頻度で笑い、笑顔の動機となる感情は何か」を調べるために3ステップの実験を行いました。
最初に、108人の被験者に対して、「今日1日でどれくらい笑顔になったか?」に加え、「気分がいいときに笑うと思うか? それとも気分を良くするために笑うと思うか?」という2択の質問に答えてもらいました。その上で、「自分の人生にどのくらい満足しているのか?」というアンケートにも回答してもらいました。
次に、別の63人を被験者とし、さまざまな写真を提示し、「面白い写真を見つけたら笑ってください」と指示。最後に、これまた異なる被験者85人に対して、「自分が幸せを感じて笑顔になる状況をリストアップしてください」と伝えた上で、各被験者の人生の満足度を調査しました。
3つの実験を分析した結果、「幸福を感じていないときに笑う被験者は、笑顔をつくると逆に気分が落ち込みやすくなる」と分かったそうです。さらに、「幸福を感じているときに笑う被験者は、笑顔になると気分がよくなる」ということも分かったといいます。
つまり、うれしいときは我慢せずに笑った方が気分が上がり、悲しいときは無理して笑うのではなく、素直に泣いたり落ち込んだりした方がいいのです。「涙の数だけ強くなれるよ♪」という歌がありましたが、実際に涙を流すとコルチゾールも一緒に発散されるため気持ちも晴れやすくなります。
思いっきり泣くと妙に気持ちが落ち着くのは偶然ではないんですね。
だからといって、気持ちをスッキリさせるために玉ねぎを切り刻んで涙を流せばいいというわけではありません。山口県立大学看護栄養学部の検証によって、「玉ねぎの刺激に対する反応として出る涙と、感動する映像を見て流す涙とでは、同じ量の涙でも効果が異なる」ことが明らかになっています。玉ねぎを切るときに出る涙には、コルチゾールはほとんど入っていない。だから、自然に委ねる。泣きたいときに泣き、笑いたいときに笑えばいいのです。
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