がんと向き合い生きていく

薬でがんは予防できるのか アスピリンは大腸がんを抑制する

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 明けましておめでとうございます。今年は、昨年と違って明るい年であることを祈っています。

 さて、薬でがんの発生を低下させる、あるいは防ぐことはできるのでしょうか?

 私事を申し上げて恐縮ですが、私は2010年12月30日に3本の冠動脈バイパス手術を受けました。あれから11年が過ぎました。2016年には、血管内にステント(網目状になった金属製の筒)を留置して広げるステント留置術を行いましたが、おかげさまで元気でおります。この間、今日まで、便秘や腹痛があったこともあり、2度の大腸内視鏡検査、3度の胃内視鏡検査を受けましたが、大腸がんや胃がんは見つかっていません。

 実は、2010年のバイパス手術以来、毎朝、アスピリン(バファリン)を内服しています。通常、痛み止めで使うアスピリンは1回300ミリグラムの内服ですが、100ミリグラムの低用量アスピリンを1日に1回服用すると、血小板が固まりにくくなる作用があります。私のように血管が詰まって心筋梗塞になった、あるいは脳梗塞後の再発を予防する場合、多くは低用量アスピリンを内服します。

 海外の論文では、低用量アスピリンを長期間服用している患者は大腸がんが少ないことが報告されています。また、大腸がんの前がん病変である大腸腺腫も低用量アスピリンでその発生が低下することが、いくつもの臨床試験で証明されています。また、アスピリンは食道がん、胃がんの発生を抑制しているとの報告もあります。

 もしかしたら、私はその恩恵にあずかっているのではないかと思っています。まあ、そんなことを言っていても実は大腸がんが隠れていて見つかるかもしれませんから、油断は禁物です。

 いずれにせよ、大腸がん予防のための低用量アスピリン内服は、今の日本の保険制度上では認められていませんが、ひょっとしたらいずれ実用化される日が来るかもしれません。また、とても厄介ながんとして知られている膵臓がんにおいても、アスピリンを5年以上内服している人では、疫学的研究から予防効果が示唆されています。しかし、乳がんや前立腺がんに対しては予防効果はないようです。

 胃がんに関しては、その発生のほとんどがヘリコバクター・ピロリ菌感染によるものだと分かっており、抗生剤を使ったピロリ菌除菌で胃がんの発症を減少させることも判明しています。しかし、除菌によって胃がんが発生しなくなるかどうかまでは分かっていません。いずれにせよ、胃がんを減らすにはピロリ菌除菌が有効な手段であるのは確かで、胃がんの死亡率は1970年代から低下傾向にあります。

■ワクチン接種でも減らせる

 がん予防のためのワクチンもいくつか接種が行われています。子宮頚がんの予防には子宮頚がん予防ワクチンがあります。子宮頚がんはそのほとんどがHPV(ヒトパピローマウイルス)感染によるもので、ワクチン接種により感染を予防し、88%ほどがんを減らせるようです。

 日本では2013年4月に12~16歳(小学6年から高校1年に相当)の女性に対して、無料の定期接種として積極的勧奨としました。ところが、接種後に体の痛みなどさまざまな症状の訴えの報告があり、厚労省は同年6月に定期接種を維持しながら、積極的勧奨を中止しました。

 しかし、2021年11月の検討部会で、海外の大規模試験から予防効果が示されているとして、積極的勧奨を今年4月から再開することを決めました。

 肝がんは、その主要因はC型肝炎ウイルス(HCV)やB型肝炎(HBV)の持続感染によるものです。2016年10月1日から、B型肝炎ワクチンが定期接種となって行われています。

 このように、薬やワクチンによって予防できるがんがあるのはたしかです。ただし、がんの発生には、喫煙、飲酒、食事、運動不足、太り過ぎなどの要因が関係しているので、生活習慣の改善が大切です。

 人生、先は何が待っているか分かりません。それでも、今年はきっと良いことがあることを信じて生きていきたいと思います。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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