最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

ヘロヘロになりながらの往診では患者や家族に安心を与えられない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 私たち在宅医療では、重い症状の方から比較的安定されている方まで、さまざまな状態の患者さんを診ています。

 どんな状況でも柔軟に対応できるよう、スタッフのシフトおよび医療ケアの準備に関して、一年を通して24時間対応の体制を敷いているため、うかがった先の患者さんやご家族から「寝てないの? 休んでないの?」と声をかけられることがたびたびあります。

 いつも無用なご心配をおかけして申し訳ないと思っています。

 ですが、これは意外に思われるかもしれませんが、実際には深夜や突然の呼び出しというのは、それほど多くありません。それは、普段から電話連絡をしたり相談に乗ったりして、突発的な事態が生じないよう、こまめに対応しているから。さらには、昼間の時間になるべく多くの人の手が入るようにシフトを組み、往診をするように努めているからです。

 私たちも休息を取りながら次の日に備えられますし、何より患者さんの負担が軽減され、生活サイクル維持につながります。

 結果的に在宅医療の質が上がり、患者さんのQOL(生活の質)の向上はもちろん、ご家族の安心安全にもつながっていると私たちは考えています。

 看護疲れに陥ったご家族と、同じくヘロヘロになりながら往診する医療スタッフという状況では、いい在宅医療は実現しないのです。

 その患者さんは76歳で奥さまと2人暮らし。骨髄異形成症候群と老衰があり、私たちが訪問するようになりました。

 奥さまは病状が変化するたびに不安になるようで、日中、頻繁に電話がかかってきました。その都度、簡単なアドバイスを伝え、必要があれば必ず訪問して患者さんの状態を確認。状況に応じて、症状を楽にするために輸血などの治療を行いました。

 そして私たちが帰った後も患者さんがつらさを感じず過ごせるか、一生懸命に考え、奥さまに伝えるように努めました。そうすることで奥さまも安心されて、ご本人とともに夜間はぐっすりお休みできました。やがて嫌な症状もなく、徐々に衰弱し、眠ったように永眠されたのでした。

 私たちは常にどうすれば自宅という場で患者さんが療養しながら、そこのご家族もみんな安心を得られるかを考えます。

 まさにそのことが在宅医療に求められる「患者さんの生活を丸ごと見るテーラーメードな医療」のあるべき姿だと考えています。

 患者さんが安心しなければ、私たちも安心できません。だからこそ、患者さんやご家族の生活が不規則になりがちな深夜の往診を避け、夜間は安心してお休みしてもらう。昼間の重点ケアの実施は、在宅医療において必要不可欠だと考えています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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