最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

ネンネンコロリではなくピンピンコロリを実現させるために

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ピンピンコロリという言葉があります。好きな時に自分の足で歩き、自分の舌で好きなものを味わう。いわゆる最期のその時まで健康寿命をまっとうするということです。ちなみに、このピンピンコロリに対して、ベッドで寝たきりになり最期を看取られることをネンネンコロリと言うそうです。

 よくあるのが、高齢者が転倒し骨折し、救急車を呼んで病院に行ったら即入院となり、そのまま認知症を発症してしまい、帰宅したころには呆けがひどくなっていたというケースです。

 どんなにお元気な方でも、この「骨折して入院する」を2回も繰り返せば、認知症の症状が出る確率が高くなります。

 これが、もしも病院ではなく、在宅医療により自宅で療養をするならば、当然ながら治療期間中はギプスで固められた不自由な生活を1カ月ほど送ることは同じではあるものの、家族や在宅医療スタッフ、日常生活のさまざまなことから受ける刺激で、認知症の症状の発症は格段に少なくなると考えています。

 骨折した場合には当然、病院でも歩くためのリハビリも行いますが、それは在宅医療でも同じです。国家資格者である理学療法士が訪問し、リハビリの手助けを行います。

 この理学療法士は、生活する上での基本動作能力である〈座る、立つ、歩く〉などの回復やその維持、さらには障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法、リハビリの指導で、患者さんが自立した日常生活が送れるよう支援する役割を担っています。

 在宅医療の理解が増えるに伴って、病院ではなく、自宅でリハビリを行いたいという患者さんが確実に増えていますが、この傾向は今後もますます強くなると考えています。

 2025年には、75歳以上の高齢者の人口が全体の18.1%になると推計されています。人が自由に自分の日常生活を健康に送ることができる健康寿命の平均は、男性72.68歳、女性75.38歳であるのに対して、平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳。健康寿命と平均寿命でおおよそ10年の差があるわけですが、この10年を、病院や施設で過ごせば到底ピンピンコロリは望めません。

 そのためには、もっと自宅や地域で皆が支え合って暮らせるような仕組みが必要だと考えます。そして限られた医療・介護資源で多くの高齢者を支えるにも、さまざまな施設とそこで働く専門職が包括的に協力し合わなければなりません。

 このように、高齢社会にあって、たとえ重度な要介護状態になったとしても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供され、地域が連携して支える仕組みを「地域包括ケアシステム」と呼んでいますが、これは厚生労働省が03年から提唱している考え方です。

 そんな地域の連携の中にあって、在宅医療が重要な役割を担っていければと考えています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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