Dr.中川 がんサバイバーの知恵

「粒子線」の保険適用拡大 X線を上回る効果も見逃せない短所

施設が近くにあればラッキー(大阪重粒子線センター)/
施設が近くにあればラッキー(大阪重粒子線センター)/(C)日刊ゲンダイ

 臓器や器官にできる固形がんを根治できる治療は、手術と放射線です。肺がんや食道がん、頭頚部がん、前立腺がん、子宮頚がんでは、放射線の治療成績が手術と同等。切らずに治す放射線の中で、粒子線の保険適用が4月から拡大されています。

 適用拡大は、大型の肝臓がん、局所進行したすい臓がん、術後に局所再発した大腸がん、肝内胆管がん、局所進行した子宮頚部腺がんの5つ。以前は小児がん、頭頚部がん、前立腺がん、骨軟部腫瘍でしたから、対象は全部で9種類です。

 粒子線のメリットは、がんにより大きなエネルギーを与えられること。従来のX線のエネルギーは、体の表面から1~2センチ下で最も強くなって、そこから弱まっていきます。つまり、がんの手前にある正常組織により強いエネルギーが照射されるため、正常組織が耐えうる限界値を考えることが重要です。

 その点、粒子線はエネルギーのピークをがん病巣に合わせることで、線量を集中できます。粒子線は、がんへの照射量をよりピンポイントに高めつつ、正常組織へはより狭く、かつ線量を低くすることが可能。治療効果を高め、かつ副作用を少なくできるのです。

 たとえば適用拡大の一つ、局所進行すい臓がんは、がんがすい臓の表面を越えて周りの重要血管と血管周囲に浸潤しつつも遠隔転移はしていない状態。手術はできず、抗がん剤で治療しても成績はよくありません。5年生存率は、ステージ2で2割、ステージ3だと6%程度です。

 それが抗がん剤を併用した粒子線の多施設共同研究J-CROSでは、2年局所制御率(2年間照射部位に再発がない割合)が62%、1年局所制御率が82%でした。全症例の2年生存率は46%です。一方、副作用は少ないことが報告されています。

 ほかのがんについても同様に臨床試験の成績がいい。保険適用になったことで、以前は約300万円かかった医療費が、高額療養費制度も使うことで多くの人は数万円から十数万円にまで抑えられるのです。

 そんなメリットの半面、デメリットもあります。粒子線には、陽子線と重粒子線の2種類あり、1カ所で2つ備えているのは兵庫県立粒子線医療センターのみ。ほかの24カ所はいずれかです。アクセスのしにくさは、ネックです。もう一つ、それぞれのがんで、対象となる患者が限られるのも壁に。条件ナシは、前立腺がんのみです。

 そこで、考えたいのが従来のX線の最新治療です。先ほど正常組織への影響を触れましたが、X線でも最新の定位放射線はピンポイント照射の精度が上がっていて、こちらは広く普及。たとえば前立腺がんで、粒子線の照射回数は10回以上ですが、東大病院の定位放射線は5回、1回にする計画もあります。

 今後、粒子線と定位放射線のどちらを選ぶかについては、セカンドオピニオンを取ることがとても重要です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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