五十肩を徹底解剖する

50歳以上の4分の1が「腱板断裂」 そのうち3分の2は痛みなし

写真はイメージ
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「腱板断裂」は肩の痛みを生じる代表的な疾患のひとつです。しかし、必ずしも自覚症状を伴うとは限らず、痛みのない腱板断裂もあります。この「無症候性腱板断裂」の存在は、国内外のMRIや超音波などを用いた数々の研究で報告されています。

 本邦での地域検診でも、「50歳以上の一般住民約4分の1に腱板断裂が存在する。しかし、その約3分の2には自覚症状がない」「肩が痛い人の3人に1人、痛かった人の6人に1人、痛くなったことがない人の5人に1人に腱板断裂が存在した」との報告があります。

 また別の研究では「無症候性の肩においても、50歳代では4人に1人、65歳以上ではほぼ半数と高頻度にいわゆる変性断裂が存在する」と報告され、加齢とともに無症候性腱板断裂の頻度は上昇するようです。つまり腱板断裂は、ある程度までは無症状の肩における腱板の「正常な」加齢変化とみなせるのです。

 これは痛みや腕が上がらないなどの症状がないとき、MRIや超音波検査のみで手術適応を決める十分な根拠にはなり得ないことを示唆します。腱板断裂を指摘されてもいたずらに落ち込む必要はないのです。

 一方、別の研究では無症候性腱板断裂を5年間経過観察したところ、平均2.8年で、約半数に症状が出てきたとの報告があります。また、片側の症候性腱板断裂の約3割に、反対側に無症候性腱板断裂を認めたとの報告があります。無症状の腱板断裂でも、症状が出る前の早期発見と治療が大事なのです。

 無症候性腱板断裂は、何らかの代償により腱板断裂が存在してもそれに適応している状態と考えられます。ただし、無症状の人がどのような条件で痛みが出るようになるのか、どのような人が痛みや機能制限を生じやすいか、これらは明らかになっていません。無症候性腱板断裂であっても、時間の経過とともに断裂の大きさが進行していないか追跡する必要があると考えられます。

安井謙二

安井謙二

東京女子医大整形外科で年間3000人超の肩関節疾患の診療と、約1500件の肩関節手術を経験する。現在は山手クリニック(東京・下北沢)など、東京、埼玉、神奈川の複数の医療機関で肩診療を行う。

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