老親・家族 在宅での看取り方

近づく最期…患者への一番の治療は家族がそばにいること

写真はイメージ(C)PIXTA
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 在宅医療を始められる患者さんの事情はさまざまです。ですが、みなさん共通してあるのは自宅で気兼ねなく最期の時を迎えたいという思いではないでしょうか。

 その患者さんは55歳の女性の方。8年前に右胸に早期乳がんが見つかり、手術でがんを切除。一般的に手術でがんを切除できた場合、5年間再発が見られなければ「完治」とされますが、乳がんはタイプによって切除後5年以上経っても再発のリスクが高い。この女性は、再発抑制のために抗がん剤やホルモン療法を受けていたにもかかわらず、骨、肝、肺、リンパ節への転移が見つかりました。

 さらには、がん転移の方によくみられるがん性胸水に。これは胸腔内に液体が貯留した状態で、そのために通院が困難となり、入院も検討されたのですが、ご家族で話し合った結果、自宅で在宅医療を選ばれたのでした。

 初めて訪問した時、同居している娘さんが、戸惑いを隠せない様子で言いました。

「予後が何カ月とか病院では詳しい話は聞いていないんです。ただ、とにかくもう治療はできないと言われました。病院で痛みを和らげたりする緩和ケアも考えたのですが、本人の希望で在宅にしました。ベッドが自宅に入ったのは昨日。結構バタバタでした」

 さっそく採血などによる検査を実施。肝臓および腎臓の状態が著しく悪くなっており、具体的な予後ははっきりとは申し上げることはできなかったのですが、その時点で長くても週単位。あるいは急にということもあると、娘さんにだけお伝えしました。

「今一番つらいのはどこです?」(私)

「だるさですね。腰の近くも痛いですね」(患者さん)

 療養初日はこのように患者さんとの会話もできていましたが、2日、3日と日にちを重ねるうちに怪しくなっていきます。

「これからは会話がはっきりできないこともあったりしますが、ひとつの目安がおしっこの量ですね。減ってきてほとんど出なくなります。そして呼吸の状態が変わってきます。そばから見ると苦しそうに見えてかわいそうだなって思うんですが、そういう時は意外とご本人は苦しくないんですね。今の患者さんにとって一番の治療は、家族がそばにいることです。できるだけ一緒にいてあげることが大事かなと思います」

 娘さんの不安が少しでも軽減するよう、こう伝えました。加えて、患者さんを見守る中で、何か気になることがあった場合は、メモに取るなど記録してもらうようにお願いもしました。

「わかりました。ありがとうございます。心配になってきた時は電話したらいいですか?」(娘さん)

「はい。こちらに電話してください。小さなことでもいいので電話してください」(私)

 こうして日々確認しながら、自宅での療養を続けていきましたが、在宅開始から5日後に患者さんは急変。ご家族の見守る中、旅立たれていきました。

 たった5日間の在宅期間でしたが、ああすればよかった、こうすればよかったと後悔してしまうようなことを、少しでも減らせたのではないかと思っています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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