質の悪い睡眠は、認知症のリスクを上げることが研究で明らかになっています。
経済協力開発機構(OECD)の2021年版調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と、加盟国30カ国のうち最下位。厚労省が今年1月に公表したデータでは、睡眠時間が7時間以下の人が7割弱でした。
最適な睡眠時間には個人差があり、「6時間睡眠でも、まったく問題ない」という人もいるでしょう。しかし、疫学的な研究結果から見ると、6時間半から7時間寝る人が最も認知症になりづらいことがわかっています。一方、6時間未満と8時間以上はどちらも2倍、認知症になりやすい、との報告も。もしかしたら、「8時間以上」というのは、睡眠の質が悪いゆえに睡眠時間が長くなっているのかもしれませんね。
いずれにしろ、認知症予防の観点からも、睡眠は質の良いものを、適切な時間取ることが必要です。
なぜ、睡眠時間が短いと認知症のリスクが高まるのか? 認知症の中で最も発症数が多いアルツハイマー病は、脳に「アミロイドβ」というタンパク質が集まることが原因のひとつであることは、これまでにも述べてきました。アミロイドβの蓄積で脳の神経細胞が破壊されてしまうのです。
このアミロイドβは、脳が活動した時に発生する老廃物の一種。普通は睡眠中に代謝、分解されて脳の外へ洗い流されるのですが、睡眠不足だったり、睡眠の質が悪くて眠りが浅かったりすると、アミロイドβが徐々に脳に蓄積されていきます。一番要注意なのは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。睡眠の質が低下するだけでなく、血中酸素飽和度も一時的に低下するからです。
動物実験では、睡眠時間を短くしたラットや軽度低酸素状態ラットの脳には、アミロイドβがたまってしまうことが確認されており、人間でも一晩の寝不足でアミロイドβの蓄積が増えるとのデータがあります。
年を取ると、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌量が減少し、眠りが浅くなります。つまり、年齢を重ねるごとに、質の高い睡眠をきちんと確保できるよう心掛ける必要があるのです。
■質の悪さも問題
こう話すと、「何時間眠ればいいのでしょうか?」との質問が出がち。最初の方で触れたように、最適な睡眠時間は人によって違います。
朝、目覚まし時計に頼らなくても爽快な気分で目が覚め、日中は眠気に襲われることなく高いパフォーマンスを維持したまま作業ができ、夜になると自然と眠くなる……。こうなっていれば、自分に適した睡眠時間を確保できているのでしょう。
ちなみに、昼過ぎに眠くなるのは体内リズムに沿った自然な現象の可能性もあります。そんな時は、15~30分ほどデスクにうつぶせになって目を閉じる「昼寝」は認知症予防として推奨されています。「そんな短い時間では眠気を解消できない」というようなら、それは夜間の睡眠不足が考えられます。
睡眠は、眠るための時間の確保も大切なら、質を向上させる工夫も必要。枕元にスマートフォンを置き、眠る直前までメール、インスタグラム、フェイスブック、ツイッターなどのチェックをしていませんか? 自律神経のうち、活動時に働く交感神経が優位になり、眠りの質が低下します。
休日だからと寝だめはせず、大体同じような時間に起き、太陽光線をなるべく浴び、体を動かし、バランスの取れた食事を取る。睡眠の質を高める方法としてよく言われていることですが、できていない人が多い。今の習慣の何を変えればいいのか、改めて見直してみてはいかがでしょうか?
私の提案は、夜は一定のルーティンをつくること。入浴して温まった体が冷め始める頃に睡魔が来るので、睡眠前の適温での入浴はおすすめです。また、軽いストレッチをしてから寝るのもいい。そして寝床に入ったら好きなことや楽しいことを考える、などなど。
脳がそれを覚えて学習し、脳も体も「眠りスイッチ」へと切り替わりやすくなります。