老親・家族 在宅での看取り方

自力で歩いての通院が「病気に打ち勝つ気概」の確認になっていたが…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 先日、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)を患う男性が私たちの在宅医療を始められました。75歳で1人暮らしの方です。

 T細胞は、主に免疫機能を担っている血液の白血球の一種。末梢性T細胞リンパ腫とはその白血球の中のリンパ球に異常がみられ、無制限に増殖することで発症する血液のがんです。主な症状は、増殖したT細胞が集まってできるリンパ節の腫れ(しこり)や圧迫感で、ときに高熱が出ます。この患者さんの場合は、このリンパ腫が白血病化しており、いつなんどき急変してもおかしくない状態でした。

 昨年、不調で病院を受診したところ、このPTCLと診断。今年の春から病院に通院しながら化学療法を受けていました。

 ご本人としては体調が落ち着いたら治療できると期待しており、短い距離なら歩行が可能ということで、当初は通院を続けておられましたが、心不全を発症し入院。ADL(日常生活動作)も低下し、今回の在宅医療を一時的に受け入れることとなったようです。入院中には酸素吸入も行われていたということで、自宅で酸素吸入を行う在宅酸素療法(HOT)も備えながら在宅医療を開始したのでした。

 自分の足での通院が、ご本人にとって病気に打ち勝つ気概を確認することのようで、まだ通院は続けるおつもりだったため、実は今回の在宅医療は不本意だった様子です。

「ご通院はだいたい金曜日?」(私)

「はい」(患者)

「わたしたちの訪問頻度ですが」(私)

「10日くらいでいいかな」(患者)

「では2週間後に」(私)

 まずは私たちが訪問する頻度を確認し開始となりました。

「抗がん剤治療をやるとかは?」(私)

「向こうの先生と大ゲンカしてね。最初っから余命5年とか言われて。なに言ってんだって! あまり信用してないんだよね。仲は悪くないんだけどさ」(患者)

「説明しないといけないと思って言ったのかもですね」(私)

「それは分かっているんだけどさ」(患者)

 患者さんにとって受け入れがたい現実であることを理解し共感し、それでも少しでも患者さんのQOL(生活の質)を維持向上させるために、患者さんの思いへの寄り添いは重要であり、そんな交流も自宅で患者さんがリラックスしているからこそできることでした。

「今後はこの自宅に1人で住む予定ですか?」(私)

「今のところは決めてないですけど体調とかで決めていこうかなと。40年以上会っていない子供がいるけど、向こうの生活もあるわけだしね」(患者)

「今後はお子さまと連絡をとってという感じですかね」(私)

「向こうに拒否されたら無理ですけどね」(患者)

 当初は身寄りがいないとおっしゃっていましたが、長らく会っていなかった息子の連絡先が分かったことを教えていただきました。

 患者さんがご自身の病気と向き合おうとすると、どうしても人生と向き合うことになる。そんなお手伝いを患者さんに寄り添いながら行うのも在宅医療の役割だと考えています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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