「肥満」と「肥満症」。この2つは、現在、区別して捉えられています。
肥満は太っている状態を示す言葉。一方、肥満症は治療の対象となる「病気」。だから「肥満“症”」という名称になっているのです。
「肥満症」という概念が提唱されたのは、2004年のことです。日本肥満学会が世界で初めてその言葉を打ち出しました。同学会は06年に治療ガイドラインを、11年に診断基準を発表。また昨年末には、6年ぶりとなる診療ガイドラインの改訂版を発表しています。
肥満というと、「食欲を節制できないからだ」「怠惰な生活だからだ」など、自己責任に起因するものとみなしがち。しかし実際は、社会や環境による要因、遺伝因子による個人差などで肥満は起こるもので、自己責任に起因するものではないとされています。
だからといって、肥満で健康障害が生じている、またはそのリスクが高くなっているようであれば、医療的観点から治療が必要です。
その対象となる肥満症と診断されるには、まずはBMI25以上の肥満であること。次に、「肥満による11種の健康障害(2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患など)のどれか1つ以上に当てはまる」あるいは「内臓脂肪型肥満」のどちらかであること。
さて、認知症と肥満の関係は、というと、中年期の肥満が認知症のリスクを上げることは明らかです。
肥満症の診断基準となる「11種の健康障害」(前出)に含まれる糖尿病、脂質異常症、高血圧は認知症の危険因子。肥満症は動脈硬化を進行させ、血管性認知症のリスクが5倍に上昇し、アルツハイマー型認知症のリスクも3倍に上昇することが報告されています。
同じく「11種の健康障害」の中の睡眠時無呼吸症候群は、それによる低酸素刺激で、脳の海馬に萎縮を起こしやすくさせます。海馬は記憶に関係している部位です。また、脳内のアミロイドβタンパクが増えることも知られています。
脳におけるインスリン作用不全は認知機能の低下とも深く関係しています。インスリンの経鼻吸入で肥満症や2型糖尿病に伴う認知機能低下が改善したという臨床研究結果も報告されています。
脳腸相関(脳と腸がお互いに密接に影響を及ぼし合っていること)が近年注目されていますが、肥満症で腸内細菌叢の異常や消化管粘膜のバリアー機能不全があると、炎症性サイトカインや毒素といった炎症を引き起こす物質が血液内に混入。全身臓器に炎症を引き起こすばかりか、それらが脳内にも侵入し、海馬、視床下部、大脳皮質に炎症が起こり、認知機能低下を招くともいわれています。
現在、肥満症の人は、認知症対策のためにも体重減は必須。食事療法や運動療法だけで痩せられない場合の最後の手段としては、薬を使うという手もあります。今年1月には、肥満治療薬が承認され、約30年ぶりの新薬として発売になります。
肥満症の診断基準はすでに述べた通りですが、この新薬が保険適用となるのはまた条件が異なり、「BMI27以上で、11種の健康障害に2つ以上該当」または「BMI35以上」であり、さらに高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のどれかに該当し、食事療法・運動療法で十分な効果を得られない場合、になります。
認知症と肥満の関係でもうひとつ念頭に置いて欲しいのは、「高齢者のBMI高値は認知症発症のリスクにならない」ということ。
高齢男性4181人(平均年齢75.3歳)の8年間の追跡調査で、BMI減少群、増加群、維持群で比較したところ、認知症リスクが最も高いのは減少群で、最も低いのは維持群との結果が出ています。