昔は朝まで熟睡できたのに、夜中に何度も目が覚めるようになった──。高齢の方から聞いたことはないでしょうか? 年を取ると、若い頃と比べて睡眠の質が低下します。
高齢者では中途覚醒回数(夜中に目が覚める回数)や覚醒時間が増加し、徐波睡眠が減少することがわかっています。
徐波睡眠とは、一番深い眠りの時間。ノンレム睡眠のうち振り幅の大きいゆっくりした睡眠が中心となった段階です。
認知症になると睡眠の加齢変化がより強く現れがちです。
夜中に何度も目が覚めたり、朝早く目が覚めるということが、認知症では、そうでない高齢者より起こりやすくなるのです。
一日の中で睡眠と覚醒が不規則に現れているわけです。
ただ、24時間単位で見た睡眠時間が、認知症発症前より減っているかというと、そうとは限りません。夜間の睡眠時間は短くなっているけど、日中にちょくちょく寝ていて、24時間の睡眠時間をトータルするとあまり変化せず、ということがあるからです。
24時間のリズムで生理機能や行動を調整する体内時計が、老化とともに、そして認知症になるとさらに、それをつかさどる脳内ホルモンであるメラトニンの分泌が低下することにより、機能低下します。
これを「概日リズム睡眠障害」といいます。認知症の方に見られる「一日の中で睡眠と覚醒が不規則に現れている」という状態は、概日リズム睡眠障害のタイプの一つ、「不規則睡眠・覚醒リズム障害」に該当します。
たとえば、読者のみなさんが認知症のご家族と同居されていたとして、「(認知症の)おじいちゃん・おばあちゃんの寝つきが悪い」と医師に訴えたとします。一般的に、「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」と言われると、比較的容易に睡眠薬が処方されやすい。しかし、認知症に詳しい医師では、そうではないと思います。
前述の通り、概日リズム睡眠障害の一つ、不規則睡眠・覚醒リズム障害であって、24時間のトータルの睡眠時間は変わらない可能性があるからです。そのような場合に睡眠薬を使うと、一時的には夜の睡眠時間が確保されたように見えても、中長期的には不規則睡眠・覚醒リズム障害の増悪や、ADL(日常生活動作=自立生活の指標)やQOL(生活の質)の低下に陥る恐れがあります。
そもそも高齢者においては睡眠薬の処方は慎重であるべきです。呼吸抑制の誘発、転倒・骨折の危険増加などが考えられます。
認知症ではさらに、それ以外の睡眠問題も起こりやすい。
米国メイヨークリニックがアルツハイマー型やレビー小体型などの認知症患者を対象に、認知症に併存する睡眠障害に対して調査を行いました。
それによると、なんらかの睡眠問題を有する人の割合は、アルツハイマー型で64%、レビー小体型で88.6%、その他の認知症で73.3%。
睡眠問題で頻度の高いものとしては、概日リズム睡眠障害(不規則睡眠・覚醒リズム障害)のほか、レム期睡眠行動異常症、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)、睡眠時周期性四肢運動障害がありました。
認知症の睡眠問題に対して、どのように対策を講じるか。原因とその程度によっては薬を使うことはあるものの(たとえば、むずむず脚症候群ではドーパミンの働きを補う薬やてんかんの薬などを用いる場合があります)、基本は非薬物療法です。
太陽の光を浴びる、昼寝は少なめにする、日中の活動量を増やす、夕方以降の入浴や半身浴、夜の水分摂取を控える、睡眠環境を整える、睡眠を阻害する薬物を調整する、など。方法はさまざま。
こういった生活習慣改善を中心とした非薬物療法は認知症の方ご本人が自ら意識して……というのはなかなか難しい。ご家族や介護者が率先して行うことになります。