がんと向き合い生きていく

「がんになりやすい性格」というものは本当にあるのだろうか

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Gさんは昼休みの時間に、会社の屋上で缶コーヒーを飲みながら、亡くなった上司のFさんを思い出していました。

「Fさんは膵臓がんで、わずか1年間の闘病だった。みんなから好かれ、とても良い方だった。部下のことを一生懸命考えてくれた。私たちが苦労をかけ過ぎたのではないか……。それにしても、みんなの話をよく聞いてくれた。きっと、会社との間でストレスが多かったのだろう。酒の量も多かった。たばこの量も多かったな。あんないい人が……考えられない。いま、ここにひょっこり現れそうだ。ストレスが、がんの進行を速めたのではないだろうか? 奥さんは、娘さんは、どうしておられるだろうか?」

「どうも、転勤してきた今度の上司と私はうまくいかない。だいたい、仕事の量が増えた。文句も言いにくい雰囲気だ。翌朝は早いのに、夜遅くまで残業だ。この生活、いつまで続くのか? 肩は凝るし、空腹になると上腹部がきりきりする。どうも胃の調子が悪い。来週、会社を休んで診療所へ行こうかな」

 席に戻ると、上司が「このあたりでたばこの臭いがする」と口にしました。隣の席のKさんが、「すみません。先ほど、屋上でたばこを吸っていました。臭いを消してから戻ることにします。気をつけます」と頭を下げます。Gさんは、心の中で「あんなふうに、謝るのもストレスだな」と思いました。

「それにしても、ストレスはがんに関係するのだろうか? それとも喫煙が関係した? しかし、ストレスのある生活からは、性格的に逃げられない。でも、これって本当にがんに関係するのか?」

■ストレスは免疫機能を低下させる

 がんは心筋梗塞や脳卒中などと同じく生活習慣病とされ、過労、栄養、喫煙などの関与が考えられています。「がんになる性格、ならない性格」という本(本田宏・重久剛著 廣済堂出版)があります。一概に、こんな性格の人ががんになりやすいとかなりにくいとか、科学的に証明された報告はないのですが、それでも、「快活な人より、ふさぎ込んだような人にはがんが多い」との説もあります。ただ、「がんになった」という結果で、そのような態度になったのかもしれません。

 ストレスが病気のリスク要因であることは理解できていても、そのメカニズムは難しく、また主観的な情報であるストレスの程度を測定・評価するのもなかなか難しいことから、がんとの関係においてこれを明らかにするのは難しいのだと思います。

 長く続くストレスが、がん罹患のリスクを上昇させるとの研究報告もあります。過度なストレスは自律神経を刺激し続け、カテコラミンやグルココルチコイドなどのホルモン分泌を増加させます。たしかに、これが免疫機能を低下させ、がんの進行を促進させてしまうこともあると思います。

 以前、肺がんの患者で、通常の治療以外に早期から充実した緩和ケア、心のケアを行うことにより、生存率が改善したという報告がありました。

 職場において、ストレスチェックで「高ストレス」と判定されるのは、特に心身の症状、活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴などが強い場合で、その他にストレスの要因(仕事量、働きがいなど)、周囲の支援の有無などがその判定に使われます。

 Gさんは、「わが社では何がストレスの原因になっていることが多いのかについて意見を出してみて、それを基にしてみんなで話し合ってみたい」と考えました。隣の席のKさんに話すと、来月の「思いつき委員会」でアンケート調査を提案してみようと賛成してくれました。そしてふと、Kさんがつぶやきました。「たばこの臭いもみんなのストレスなんだよな」

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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