第一人者が教える 認知症のすべて

認知症の疑いは何科を受診する? 大事なのは診療科で選ばないこと

認知症に至るまでは段階がある
認知症に至るまでは段階がある(C)日刊ゲンダイ

(家族に)認知症を疑う症状が見られる。病院で診てもらいたいんですが、何科に行けばいいのでしょうか──? そんな質問を時々受けます。

 かつては、健常者か認知症かで考えられていましたが、今は、認知症に至るまでは段階があることがわかっています。

 認知症は、物忘れがない「健常者」から、自分自身は物忘れの自覚があるが、周囲は気づかない「SCD(主観的認知機能低下)」、周囲が物忘れに気づき始める「MCI(軽度認知障害)」を経て、認知症の軽度→中等度→重度と進行していきます。

 つまり、周囲が「これまでと違う。病院で診てもらった方がいいんじゃないか」と感じるようになる前(それも、大抵はだいぶ前)から、ご本人は自分の異変にうすうす気づいているわけです。

 気づきつつも、それを認めるのが怖い。以前なら考えられなかったような失敗があったりして、「私、大丈夫なのかしら」と不安な日々を送っている……。

 でも、腹痛でも同じですが、軽いうちは誰でも「いや大丈夫!」と症状を否認して、なぜそれが起こっているのか、調べることを先延ばししやすいのが人間というものです。

 そして、腹痛がひどくなってうずくまったりすると同僚に気づかれる。前者が「SCD」に、後者が「MCI」に該当するわけです。

 さて、冒頭に戻りましょう。

「何科に?」については、診療科では選ばないことです。たとえば、私は精神科医で老年精神医学が専門。認知症患者さんを多数診ていますが、精神科医すべてがそうではありません。ご存じの通り、精神科領域にはうつ病や統合失調症、依存症、ADHDをはじめとする発達障害、拒食症や過食症などさまざまな病気があります。大人を診ているか、子供を診ているかでも異なります。認知症を疑って精神科を受診したからといって、認知症に詳しい先生に当たるとは限らないのです。

 これは、脳神経内科でも脳神経外科でも、そして老年科でも同じ。医師によって専門とする領域は人それぞれです。

まずはSCDチェックを
まずはSCDチェックを(C)日刊ゲンダイ
まずは、地域の中心的存在の病院に専門外来がないかを調べる

 家族に認知症が疑われる人がいて受診を考えている場合、診療科で選ばないのなら、どうやって受診先を決めればいいのか?

 まずは、それぞれの地域での中心的存在の病院を調べてみる。必ず認知症の専門外来があるはずです。名前はいろいろで、「物忘れ外来」「メモリー外来」「シルバー外来」などが代表的でしょうか。

 それぞれの病院で、その専門外来を担っている診療科は違ってきます。しかし、この場合はいずれの診療科でも、認知症専門の先生たちですので、安心して受診できるでしょう。

 次に、専門外来が見つからない場合には、各都道府県に少なくとも4~5施設はある「認知症疾患医療センター」を探して受診することもいいと思います。ここなら、認知症の専門の先生が必ず勤務しているからです。

 認知症疾患医療センターが遠方の場合は、各市町村に必ずある「地域包括支援センター」に相談に行くのもお勧めです。

 地域包括支援センターとは、高齢者の健康、生活全般について相談を受け付けている窓口。いわば地域住民の認知症対策の最前線です。

 多くの医療・看護・介護関係のスタッフが働いているので、地域の情報は一番持っていると言っても過言ではないでしょう。「どこの病院の○○先生がいいですよ」など、具体的な話を聞けること間違いなしです。

 それでも、まだ見つからない場合は、身近のかかりつけ医の先生に相談してみましょう。

 それぞれの市町村には必ず医師会組織があり、認知症を専門とする先生が必ず存在します。なので、その認知症専門の先生を、かかりつけ医から紹介してもらいましょう。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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