私の外来では、アルツハイマー病の方の診察はだいたい月に1回。ある日の診察室での光景です--。
「こんにちは。今日は雨で、うっとうしいですね。来るのが大変だったでしょう」
「そうなんですよ! ただでさえ時間がかかるのに、この人ったら、もう。先生、聞いてください」
旦那さんが認知症で、奥さんが付き添い。その奥さんが怒りをあらわに、私に訴えます。
「朝から保険証が見つからなくて。いつも置いている場所にないんです。そしたらお父さんが、『大事なものだからちゃんとしまっておいたと思うよ』って言うんですよ。『じゃ、どこに置いたの』って聞くと、『誰かが持っていっちゃったかな……』って。そしたら、冷蔵庫に入っていたんです! 信じられないですよ! それとお父さん、何度も何度も『今日は病院行く日か?』って聞くんです。『そうよ』って言っても、すぐ忘れちゃって、朝から何度も『今日は病院行く日か?』! 頭にきて、『いい加減にしてっ』と怒ってしまいました」
第一人者が教える 認知症のすべて