第一人者が教える 認知症のすべて

ある日の診察室の光景…怒る妻に、認知症の夫が「いつもありがとう」

写真はイメージ

 私の外来では、アルツハイマー病の方の診察はだいたい月に1回。ある日の診察室での光景です--。

「こんにちは。今日は雨で、うっとうしいですね。来るのが大変だったでしょう」

「そうなんですよ! ただでさえ時間がかかるのに、この人ったら、もう。先生、聞いてください」

 旦那さんが認知症で、奥さんが付き添い。その奥さんが怒りをあらわに、私に訴えます。

「朝から保険証が見つからなくて。いつも置いている場所にないんです。そしたらお父さんが、『大事なものだからちゃんとしまっておいたと思うよ』って言うんですよ。『じゃ、どこに置いたの』って聞くと、『誰かが持っていっちゃったかな……』って。そしたら、冷蔵庫に入っていたんです! 信じられないですよ! それとお父さん、何度も何度も『今日は病院行く日か?』って聞くんです。『そうよ』って言っても、すぐ忘れちゃって、朝から何度も『今日は病院行く日か?』! 頭にきて、『いい加減にしてっ』と怒ってしまいました」

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新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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