第一人者が教える 認知症のすべて

認知症疑いの親に病院で検査を…どうやって切り出せばいい?

写真はイメージ
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「病院で義母を診てもらいたいんですが、どう説得すればいいのか……」

 この女性は、ダンナさんのお母さんと車で30分ほど離れた場所に住んでいます。

 ダンナさんは男兄弟しかおらず、結婚した時、お義母さんは「娘ができてうれしいわ」と喜んでくれたそうで、嫁姑関係は良好。お義父さんが亡くなった3年前からは、休日はお義母さん宅へ行き、2人で料理を作ることもしばしば。

「本当は同居したいんですが、お義母さんが『ひとりが気楽でいい。今みたいな距離感がちょうどいいのよ』と言うので」とのこと。

 お義母さんの様子が変だな、と思い始めたのは、実は結構前だといいます。

 最初に違和感を覚えたのは、歯ブラシでした。いつも歯ブラシの予備を入れている引き出しがいっぱいに埋まっていて、それまでは歯ブラシを入れていなかった別の引き出しにも歯ブラシが入っている。

 気を付けて見てみると、ティッシュペーパーや洗濯用洗剤など、十分過ぎるほどある日用品を、買い物へ行くたびにお義母さんが買ってきている様子。「いっぱいあるから、しばらく買わなくても大丈夫じゃない?」と言うと、「あら、そう」という反応なのですが、また買ってくる。「前はこんなんじゃなかったんだけどな。大丈夫かな」と思っていたそうです。

 もしかして認知症なんじゃないかと不安になってきたのは、この数カ月。

 同じものを何度も買ってくるのに加え、「テレビのリモコンがない」と捜していたら食器棚に入っていたり、一緒に出かける約束を忘れていたり。

「決定的だったのは、料理の味付けが変わったこと。料理好きで、お義母さんが作るものはなんでも絶品だったのに、何か味付けが変なんです」

大原則は「嘘をつかない」
大原則は「嘘をつかない」(C)日刊ゲンダイ
受診の説得の大原則は「嘘をつかない。正攻法でいく」

 この女性のような「(父・義父/母・義母の)認知症が心配。でも、どうやって病院へ連れて行けばいいかわからない」という相談は少なくありません。理由は「認知症かもしれない、と言うと気を悪くしそう」「病院で診てもらおう、と言ったら『ボケ扱いするのか!』と激怒された」などなど。読者の皆さんも、もしものときはどうしたらいいか頭を悩ますだろう、と予想している方がいるのではないでしょうか。

 受診の説得として、まず大原則は「嘘をつかない。正攻法でいく」。

 とにかく病院に行ってもらえさえすればいいと、「ただの健康診断だから」「医者とちょっと話をすればいいだけだから」といったその場しのぎの嘘をつくと、後々の検査や治療のときに「聞いていない」となり、ゴタゴタします。

「次」に病院へ連れて行こうとしたら、断固として拒否された、といったケースも珍しくありません。

 順番としては、まずは息子・娘から「いつまでも元気でいてほしいから」と受診を説得する。関係性によって、実の息子・娘のほうがいいか、義理の息子・娘のほうがいいかは変わります。それでダメなら、お孫さんから説得する。

 それでもダメなら、かかりつけ医に「そろそろいい年齢だから、調べておいたほうがいい」と説得してもらう。

 もし、父母の配偶者が健在なら、配偶者から「病院を受診したいけどひとりでは不安。付き添ってもらえないか」と切り出し2人で受診する。“付き添い側”の診察が主目的となるわけです。

 冒頭の女性の場合、息子さんが「母親が認知症のはずがない」と説得を拒否(息子が母親の認知症を拒否するケースはよくあります)。

 女性と、お義母さんが可愛がっていた娘さん(お義母さんから見たら孫)が2人で説得したところ、想像していたよりすんなりと応じてくれたそうです。患者さん自身が、以前はありえなかった物忘れなどに不安を感じていて、病院で診てもらいたい、でも勇気がない……と内心思っているケースも、またよくあります。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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