病気をいち早く見つける「スマートウエア」って何だ? 着るだけで心拍数をチェック

スマートセンシングウェア
スマートセンシングウェア(提供写真)

 一定時間内に心臓が拍動する回数を示す心拍数は、健康のバロメーターだ。この測定に役立つ画期的なウエアが、立命館大学スポーツ健康科学部の塩澤成弘教授らによって開発された。

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 高心拍数の人ほど脳卒中や心臓病の発生率、死亡率が高いことが、複数の調査で報告されている。

 心臓が正しく拍動しているかは心電図検査を受けなければならないが、心拍は脈拍と同じリズムなので、脈拍を測ればだいたいの心拍数が分かる(不整脈があると正しく出ないので例外もある)。

 病気のリスクが高くなる40歳以上は、健康診断での心電図検査に加え、日頃から脈拍をチェックし、異常であれば原因を突き止め、対策を講じるべき。

 とはいえ、実際にやっている人は多くないだろう。塩澤教授が言う。

「心拍数をはじめとする生体情報は、測定するセンサーが搭載された時計やバンドなどの器具を装着してもらわなくてはならない。私は生体計測の研究をしているのですが、腕時計型の小さく軽い計測器でも、“プラスアルファで新たに付けてください”というのは継続研究でもそうなのですから、不調などない人に『健康のために装着を』と言っても、なかなか受け入れてもらえないでしょう。そこでふと思い付いたのが、『服を着ないで外出する人はいない。服にしてしまえばいいのでは』ということでした」

 東洋紡、オムロンヘルスケアとの産学連携で試行錯誤のすえ誕生したのがスマートウオッチならぬスマートセンシングウェア(写真)だ。東洋紡が開発した「伸び縮みする導電性のフィルム」を応用し、センサーと服(アンダーウエア)を一体化させた。「フィルム状導電素材」は厚さ0.3ミリと極薄で、ウエアを着ても「計測器が付いている」といった感覚は全くない。

「心拍数はもちろん、体温、発汗、呼吸、運動関節角度など、さまざまな生体情報を計測できます。下着を着るだけでいいので、お風呂に入っている時を除き、24時間365日、ストレスなく計測できるのが最大のメリットです」

■洗濯100回でも機能はそのまま

 塩澤教授が強調するのは、「生体情報は必要にかられて計測するのではなく、必要と思っていない時期から長期間にわたり計測することが大事」ということ。その人にとっての傾向が見え、いち早く対策を講じられるからだ。

 心拍数は健康な成人の安静時で1分間に60~100回といわれているが、同じ年齢の2人がどちらも心拍数90回/分とした場合、これが徐々に上がってきているのか、急激に上昇したのか、上下が激しく心拍が乱れた状態になっているのかなどで対策が異なる。

「普段から計測しておけば、その人の“基準値”が分かります。普段心拍数が60回/分なのに90回/分になった人と、普段から90回/分の人とでは重みが違います。1日の中での変動も一目瞭然ですから、心拍数の上昇に何が関係しているかも分かります」

 スマートセンシングウェアの計測の正確性は実験で確認済み。耐久性も高い。実験では「洗濯機で洗濯して干して」を100回まで繰り返したが問題なかった。つまり、従来の服と同じ扱いでOK。

「センサーと服の一体化」に関する研究は塩澤教授以外のところでも行われているが、「アルコールで皮脂を落としてから着てください」「皮膚を濡らしてから着てください」など、何らかの条件が付いているものがほとんど。塩澤教授は、とにかく「ただ着るだけ」にこだわっている。

 スマートセンシングウェアの研究チームには医学部の医師も加わっており、今後は医療分野での応用を視野に入れている。

 スマートセンシングウェアは実用化もされている(https://www.cocomi.toyobostc.com/cycling/)ので気になる人はお試しを。「センサーが付いているなんて嘘でしょ?」と思うくらい、服そのものの着心地だ。

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